に去られて早数ヶ月。
羅那、魔界でのんびり中――
黒い蘭
「ふぅ」
退屈だ。などとぶつぶつ文句をたれながら散歩をしている。
これといった事件もおこらない。暇だ。
そろそろ帰るかな。と思い、鬼王宮殿の方向へと足を向けると
「ぁあ゛ーんっ、あ゛あ゛あ゛あ゛っ、う゛ええっ」
子供の泣き声が聞こえた。
「なんだ?何処のガキだ?」
普段なら気にせず放っておくのだが、今日は何だか気になって……
羅那は泣き声のする方へと行ってみた。
「あ゛あ゛あ゛あーーーーっえぐっ、えぐっ」
あの中か。
草むらの中から泣き声がする。
ガサガサッ
草を掻き分け覗くと、1〜2歳くらいの女の子が一人傷だらけで泣いていた。
なんだってこんな所に?
不思議に思いながらも羅那は子供を抱き上げる。
「うるさいぞ。ったく、どうした?」
名前は、何があった、両親はどうした?色々と問うが、子供は泣きじゃくるばかりで答えない。
幼すぎて分からないらしい。
一瞬、関わらなかった事にして捨ててしまおうかと考えたが、恨まれたりしたら色々と面倒なので止めておく。
「仕方がない……来い」
一緒に来い。と頭を撫で言ってやると、子供はえぐえぐと泣きながらも羅那の服をぎゅっと掴んだ。
「よし」
よしよし。
あやしながら宮殿へ。
戻ってすぐに鬼王である兄、蒼凰の元へ子供を連れて行くと……
「可愛いじゃないか、いつ作った?」
ケラケラと楽しそうに笑われた。
作っていない。
知っていてわざと言うのだ。人が悪い。
「蒼兄、真面目に聞いてくれないか?このガキの親の事なんだが……」
言いかけ、羅那は子供に視線を落とす。
帰り道、治療の術をかけてやったのでもう傷はない。
元の綺麗なすべすべぷにぷにの肌。
子供は羅那の服をぎゅっと掴み、大人しく抱かれている。
蒼凰はフッと慈悲深い瞳で子供を見つめた後、
「少し前……男女二人の波動が消えた。恐らくその子供の両親だろう。何者の仕業なのかは今調べさせている」
と、ため息をつきながら言った。
子供の両親はもう戻らない。
魂の欠片が集まればなんとか復活させてやれるが、望みはないに等しい。
一瞬で吹き飛んだのを感じたから。
消えた、か。
兄の言葉を聞いた羅那は自分の胸に顔を埋めている子供に視線を落とし、「こいつはどうなる?」と聞く。
服を固く握り締め離れない子供。
両親がいないのではこの先一体……
「蒼兄」
「落ち着き次第施設行きだろう。そして、成長後は遊廓で……といったところか」
苦しそうな兄の声。
羅那は溜息をつき、やっぱそれしかないのか。と呟く。
突然わけの分からない事で両親を亡くして施設送り、成長したら今度は遊女として働く……
「哀れなものだな」
呟き、謁見の間を後にしようとした羅那の背に、
「諸々の手続きが済むまで数週間はかかる。懐いているようだし、使いが来るまでお前が面倒を見てやってはどうだ?」
と、兄の声。
嫌だと言っても面倒を見させる気だろう!と思いつつ、「分かった」と返事を返した。
それから数週間後……
羅那の元へ使いの者がやって来た。
「羅那様、子供の受け入れ準備が整いました」
使者は全ての準備が出来たので子供を引き取りにきたと言う。
「そうか、ご苦労」
羅那が短く返事をすると使者は礼をした後、ベッドの上にちょこんと座ってヌイグルミをいじっている子供に近づいた。
気付いた子供はくりっとした愛らしい瞳を潤ませ今にも泣き出しそうな顔をする。
羅那以外の者が近づくと怖がって泣くのだ。
「よしよし、怖くないからね、さぁ、おいで?」
使者は笑顔を向けながらゆっくりと手を伸ばす。
泣くなよ、頼むから泣くなよ。
泣くんじゃない。
使者はドキドキしながら子供に触れ、すっと抱き上げた。
途端……
「ぅあ゛ぁーんっ、わ゛ぁぁーーっ!」
子供は泣き出した。
「っ、うるさい!」
羅那は何故か少し不機嫌。
早く連れて行けと使者に命令を下したその時……
「ぅああーん!!やぁあ!パパァ!」
「!!」
はっ!とする羅那。
子供のほうを向くと、自分に向かって手を伸ばし、パパ!と叫んでいる。
何故そんな目で俺を見る?
俺はお前の父親ではない!
この数週間、子供は羅那の側を片時も離れなかった。
ずっと寄り添って、寝るときも側にいないと寝付かなくて、食事も……
「う゛あ゛ぁー!パパっパパァ!!」
泣き叫ぶ子供。
羅那はじっと子供を見つめたまま何も言わない。
使者はパパ!パパ!と騒ぐ子供の口を塞ぎ、礼をすると扉へ向った。
早く連れて行かねば羅那様がお怒りになる。
早く退室しなければ!
急ぐ使者の背に、「待て」と羅那の声。
何かご無礼でも?!
青くなる使者。
粛清される?もう駄目だ!
目を瞑ると、目の前まで来た羅那はすいっと子供を奪い取っただけだった。
わけが分からない。
あたふたしている使者に羅那は、
「下がれ。こいつは俺が育てる。たった今からこいつは俺の子供だ」
自分の養女にすると言い放った。
使者は何かを言おうとしたが、
「下がれと言った。聞こえなかったか?」
という羅那の言葉と視線に震え上がり、失礼しましたっ!と礼をし去っていった。
その後、恐怖の対象だった使者が去ってホッとしたのか子供はすぐに泣き止んだ。
羅那にぎゅっとしがみつき、大人しくしている。
「パパか」
羅那自身、何故自分の子供にするなどと言ったのか不思議だった。
どうかしている。
に去られて寂しかったからか?違う。
それだけで引き取ったりするものか。
ただの気まぐれ?それも違う。
そんな気まぐれなど起こさない。
面倒だと分かりきっているというのに。
何だか本当に分からない。
でもまぁ、言い放ったものは仕方がない。
「お前は今日から俺の子だ。立派な女に育ててやるからな」
あやしながら言うと、子供は嬉しそうにぎゅっと抱きついてきた。
「結構可愛いものだな」
預かっている間は鬱陶しいと思っていたのだが、自分の子になった今は可愛いと思えるから不思議。
中々良い感じだ。
少しご機嫌になる羅那。
「そうだ、お前の名を考えないとな」
この数週間、子供だのガキだのと呼んでいて名前など……
「どんな名が良いか」
考えながらふと窓の外を見ると、胡蝶蘭が美しく咲き誇っているのが見えた。
胡蝶蘭……
花言葉は「幸せが飛んでくる」
「蘭、か」
美しい蘭。
こいつも成長したら蘭のように気品のある美しい女になるのだろうか?
なるといい……いや、なる。
そんな事を考えていて思った。
「お前の名、蘭にするか?いや、芸がない。俺との関係もなさそうだし……」
羅那は子供を抱いたまま室内をウロウロする。
蘭という字を使って自分との関係……
羅蘭……適当に歌っているみたいで嫌だ。
蘭羅……パンダの名前みたいだ。
まいったな、こいつの容姿で俺と似たようなところは……
っ!
髪の色と目の色、自分と同じくらい黒いではないか!
「よし、お前の名は黒蘭だ!どうだ?可愛いだろう?」
可愛いかどうかは微妙だが、決まった。
黒蘭はきょとんとしていたが、「黒蘭っ」と羅那に呼ばれると、にこぉっと笑った。
「よしよし。では、おじい様と伯父様の所に挨拶をしに行くぞ」
すっかりお父さんな羅那は黒蘭を抱きなおし、前・魔王である父と現・魔王である長兄がいる宮殿へと足を向ける。
挨拶と、黒蘭を王家に入れる為の正式な許可を貰うために。
次兄と弟へは……後でいいか、などと思いながら。
幸せが飛んできた。
―――ここまでです。
お疲れ様でしたっ。
実はこの作品、あるHPでこっそり書いて載せていた物をちょいと書き直しただけという……。
(て、手抜きじゃないですよ)
と、本編はどうした!なんて突っ込みにビクビクしながら……逃げっ><。
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