今日もいつもと変わらない。
穏やかな日・・・だったが、変化は突然に・・・。


夕暮れ近く、先に仕事から帰った黒聖が妹達の相手をしていると―――


「ただいまーっ」
白聖が仕事を終え、帰ってきた。
「あっ!白聖お兄ちゃん帰ってきたの!」
甘えっ子な妹、月翡はパタパタっと外へ走っていく。
月翡の双子の姉、月翠も椅子から降り、テクテクと歩いて兄の出迎えに。
黒聖も行く。

「ただいま〜月翡、月翠。あっ、黒聖、ただいま」
白聖はご機嫌。
「お兄ちゃぁんっ、お土産は・・・ぅん?」
「白聖お兄様、おかえりなさ・・・?」
「おかえ・・・そちらの方は?」
兄妹達は、帰ってきた白聖の背後にぴったりとくっつき、少しだけ顔を覗かせている少女に視線を集中させる。

長く艶やかな漆黒の髪。
ウルウルと潤んだ大きな瞳。
花びらのようにふっくらとした、柔らかそうな唇。
華奢だが色気を感じられる身体。
非の打ち所がない、完璧といっても過言ではない美少女。

いったい、誰なのか?気になる。
と、皆の視線を受けた少女は、サッと白聖の背に顔を隠してしまった。
「あ、大丈夫だよ。怖くない、心配ないよ。俺の兄妹だから」
白聖は隠れた少女に微笑み言うと、そっと前に出した。
そして・・・
「この子は。羅那のお弟子さん、、だったんだけど・・・」
黒聖達に事情を説明。


たまたま渡す物ができて羅那の寺に行ったら、せっせと床を拭いている女の子が・・・。
羅那に、お弟子さん?と聞くと、「ああ、一応な。見目がいいから置いてやってるんだよ」なんて言うではないか。
きっと酷い扱いを受けていて、術の一つも教えてもらってないに決まっている。
そう思い、羅那に大事に扱うよう言うと、
「突然訪ねて来て居座って、迷惑だし邪魔なんだよ。可哀相だと思うならお前が面倒見ろ。名前はな。んじゃ宜しく」
と言われてしまった。
このままではこの子、羅那にイビリ抜かれるに違いない。道士になるための修行ならうちでも。


というわけで、連れてきた。
「なっ、いいだろ?黒聖。俺が責任持つからさ」
と、兄にお願いする。
弟のお願いに黒聖は、
「かまわないよ。お嬢さん、、、だったね?君が望むなら、歓迎しよう」
が聖達の寺で修行したい。と望むなら、いても良いと言う。
「だって、どう?」
白聖が聞くと、は少し迷った後、
「よろしくお願いします」
消えてしまいそうな小さな声で言い、少し微笑んだ。
白聖はホッとした笑みを浮かべる。黒聖もにっこり。
黙ってその場にいた妹達は・・・

「あのお姉ちゃん、今日から月翡達と一緒なの?」
「ええ、そのようね」
「ぅわぁいっ!」

普通に受け止めたり、喜んだり。
「お姉ちゃん〜あのね、あのねっ、月翡、遊んで欲しいの」
人懐っこい月翡は早速にまとわりつく。
家族が一人増え、喜んでいるのだ。
「えっ、あ、あのっ・・・」
まとわりつかれたは戸惑い、白聖を見る。
どうしたらいいのでしょうか?という目。
ちょっと困った顔が可愛すぎて、白はクスッと笑うと、
「んー、遊んであげてくれるかな?大丈夫。多分、本読んで欲しいーとか、そういうもんだから」
遊んであげて。と伝えてまた微笑む。
黒聖も微笑んでいる。
が、月翠だけはムスッとしている。
大好きなお兄様をとられてしまったようで少し・・・。
「・・・よそ者のくせに」
ボソッと呟き、冷たい目でを見る。
そんな月翠に、黒聖だけが気づき、こぉらっ。とやんわり叱る。
「月翠?そんなこと言う子には、お星様チャーハンもハート入り湯も作ってあげないよ?今夜の夕食で出す予定だったんだけどなぁ」
お星様チャーハン。星型に盛られたチャーハン。
ハート入り湯。玉葱、ほうれん草、ベーコンの入ったコンソメ味で、ハート型にくり貫かれた人参が浮いている湯。
見た目の可愛らしさと美味しさから、月翠や月翡が大好きな献立。
「食後には、小さくて可愛い雪ウサ饅頭も出そうと思ったのになぁ・・・意地悪な子には出してあげないよ?」
雪ウサ饅頭。黒聖手作りの、雪ウサギ形の饅頭。餡子は甘さ控えめ量少なめ。
「っっっ・・・」
月翠は瞳をウルウルと潤ませ、黒聖を見上げる。
兄の言葉はかなりの効果があったよう。
「もう、意地悪言わないか?」
黒聖が問うと、月翠は激しく頷き、「ごめんなさい、もう言いません」と謝る。
どんなに大人ぶってもまだまだ子供。
「よしよし、素直な良い子だ。さ、月翡と一緒にと遊んでおいで」
黒聖は月翠の頭を撫で、一緒に遊んできなさい、と言う。
自分は夕食の支度をしなくては。
気合を入れて作ろう、乙女な料理。


二時間後

あっという間に夕食時・・・


お星様チャーハン、ハート入り湯を食べ終わり、いよいよ雪ウサ饅頭。
「さ〜、双子ちゃんお待ちかね、黒聖兄さん特性!雪ウサ饅頭だぞ〜」
白聖が盛り上げるように言いながら饅頭を運んできた。
双子姉妹は「ウサちゃん可愛いのぉ!」「ウサちゃんっ」と喜び、は「ウサちゃん?」と不思議そうな顔で配られる饅頭を見ている。
皿に乗せられた饅頭は真っ白で、ちょん、ちょんと丸目に切ったクコの実が少し離れてくっ付いている。
目だ。茶色の少し焦がした部分は耳。
「か、、可愛い」
は皿の上の饅頭を見つめ、嬉しそうにしている。
美しいもの、可愛いものが大好き。
「気に入った?黒聖ってこういうの得意なんだ。美味しいよ、食べて」
嬉しそうにしているを見て嬉しくなった白聖は、食べて食べて、と勧める。
は、いただきます。と言い、雪ウサ饅頭を手に・・・とった瞬間。

おねーちゃん駄目なのぉっ!違うの!」

月翡が違うっ。とむくれた。
「えっ?えっ?」
何かお行儀が悪い事をしたのかしら?
戸惑う
どうしよう、どうしよう、と困っているに救いの手を出したのは月翠。

お姉さま、お気になさらないで下さい。尻尾からだなんて、月翡が勝手に言っているだけですから。
ウサちゃんは頭からカプリといくのが良いのです」

救いの手、言葉足らずで混乱の手。
月翠の言葉にはまた困る。
「えっと、、、」
気にするな。までは良かったが、尻尾から頭から・・・とは。
うーーーん。としばらく考え、「ああ、食べ方の話」という答えを出す。
答えが出て話が解ったはいいが・・・
どうしよう?と手の中の雪ウサ饅頭を見ながら悩む。
が悩んでいるなんて知らない双子姉妹は・・・


「違うのっ、尻尾からなのっ」
「うるさいわよ?月翡。お黙りなさい」
「やだぁっ、黙らないもん!頭からなんて可哀相なのぉっ」
「可哀相って・・・尻尾から齧って頭を残すほうが可哀相だわ。一思いに頭から齧るのが情けってものよ」
「違うもん違うもんっ、月翠の意地悪ぅ〜〜、、えっ、ぅえっ、ぇっ、お兄ちゃぁんっ」
「はぁっ、鬱陶しい子ね。そうやって泣いてお兄様に縋れば全て済むと思って」


尻尾から食べるか、頭から食べるか、というくだらないことで姉妹喧嘩。
聖達も困り顔。
「ほら、月翠、もうやめて、、ああ、月翡も泣かないで」
黒聖が月翡を抱え、よしよし。と慰める。
月翠はムクレ顔。
自分だってお兄様に甘えたいのにっ。
白聖は、ほら、が困ってる。と苦笑しながら妹達を撫でる。
が、収まらない。
困り果てた、「では・・・」と言うと、、、


ハムッ。


頭と尻尾の間を取って、ウサの腹に齧りついた。
ハムハム、と齧れば、お腹の餡子が見える。
これで・・・どうでしょう?二人の主張の真ん中。これで仲直りしてくださらないかしら。
という表情の後、ニコリと微笑む。
天使の微笑みに月姉妹は・・・

「お腹・・・まぁ、いいの」
「なるほど、それで良いです」

収まったらしい。
黒聖も白聖もホッとする。
「ごめんね?」
白聖が謝ると、は「いいえ」と微笑んだ。
「っ///」
自分だけに向けてくれた微笑がなんとも言えず可愛らしい。
白聖でなくても赤面してしまう。
と、それを発見した月翡、
「白聖お兄ちゃん、赤いの。お熱?」
ちょっと心配している。
黒聖が助けようと口を開きかける。
すると、今度は月翠が・・・

「お熱・・・そうね、これからは大人の時間・・・私達はもう寝るわよ、月翡」

なんて、大人の事情を知っているかのような発言。妹、恐るべし。
白聖はひたすら固まっている。


「大人の時間って・・・大人のって」
「大丈夫か?白聖」
「白聖さま?」


黒聖は固まっている白聖を突付く。
は心配そうに見ている。
こんな調子で、ほのぼのした時間はどんどん過ぎていったのであった。



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