憎悪






新しい家族「聖」を向かえ、今までよりも楽しそうに時間を過ごしている劉道士達。
そんな道士達を、一人の男が高い木の上から冷たい目で見下ろしていた。
道士の家からは少し距離がある。普通ならば見えるはずがない。だが、男は実力ある道士。
手懐けた子鬼を使い、場にいるのと同じ映像を見ることができる。


「幸せそうだな。だが、それもそろそろ終わりが近いぞ?お前の幸せ、俺が壊してやるよ。
ゆっくり、少しずつ時間をかけてな・・・その為にアイツを殺したんだ・・・さて、コイツは挨拶代わりだ。受け取ってくれよ」
そう言って、男がお札を木の真下に転がしておいたキョンシーに飛ばすと


「ぅぅ・・・ぁぁぁぁあああああ〜〜」


不気味な声と共にガバっとキョンシーが起き上がった。
腐乱し始めの恐ろしい顔、鋭い爪。
邪気に満ちている。


「いいぞ・・・」
男は獲物を探すように辺りを見回しているキョンシーに満足そうに冷たい微笑を向け、
「さぁ行け!!」
と命じた。すると、


「ぅあああああ〜〜〜」


キョンシーは男の言葉に従い、道士達の所へと向かっていった。
血を求め一直線に向かっていくキョンシーの姿を見送りながら、
「さぁて劉道士、お手並み拝見といこうか」
と男は愉快気に笑った。
狂気に満ちた瞳を光らせて・・・










「お師匠様!」
「っぐあああああっ!」
「お師匠様ーーー!このキョンシーめ!お師匠様から離れろーーーーーーー!!!」










弟子の悲痛な叫びと道士の苦しむ声 子鬼から送られてくる映像
男にとってこれ以上面白いことはなかった。


俺から大切なものを奪ったのだから、当然の報いだ。もっと苦しめ!
お前の大切なものを奪って、傷つけて、同じ思いをさせてやる。そして最後は・・・


























お前を殺してやる――――――――――――



























男の心は闇に囚われている。
哀しい闇に・・・














「あはははっ。なんだ、その程度か?女弟子に庇われ屍人形に助けられるなど、道士とは名ばかりだな?
だが、これで今まで以上に弟子の存在が大きくなったろう?その人形も大切になったろう?
奪い去る日が楽しみだよ劉道士。・・・さて、と・・・花花、もういいぞ」
と男が言うと映像は消え、
「聖様〜〜〜!」
と嬉しそうに子鬼が飛んできた。

天の邪鬼の花花。
漆黒の艶やかな長い髪、くりっとした愛らしい瞳。
その美しい外見からはとても鬼だとは思えない。妖精のようだ。

「ご苦労だったな」
聖がそう言うと花花は、
「こんな疲れること、もう頼まないでよ?」
などと言いながら、スリスリと聖の頬に擦り寄り、甘える仕草をとった。
「聖様のためならこんなこと朝飯前。いつでも使って」と言いたいのだが、天の邪鬼なのでつい逆のことを言ってしまう。
が、しっかり伝わっているので問題はない。
「はは、可愛いな、花花は。ありがとう、楽しかったよ」
聖は甘える花花の頭を指で軽く撫でてやりながら礼を言った。
すると撫でられた花花は、
「私はつまらなかったよ。聖様は本当に劉道士が大好きなんだね」
と言い、ゴソゴソと聖の懐に潜りこんだ。
ちゃっかり者である。
聖は、こらっくすぐったいだろ?と花花をやんわり叱ると、
「劉道士・・・ああ、好きだよ。大好きさ。たまらなく、ね・・・」
そう呟き、懐をグシャリと握った。

ポキッパキッ

小さな骨が砕ける嫌な音がする。
「・・・お前が気に障ることをしたからだぞ?花花」
冷ややかに言い放つ聖。
懐に潜り込んだのが気に入らなかった。

触れていいのは彼女だけ、彼女だけなのだ・・・

聖はピクピクと震えている花花をポイっと投げ捨てると、
「今のうちに幸せな夢を見ておくんだな、劉道士」
と言い、ヒラリと木から飛び降り夜の闇の中へと去っていった。



聖の去った後、
「ひ、聖様・・・ごめんな、さい・・・」
花花は木の下でふるふると震え泣きながら、去った主人に詫びていた。
天の邪鬼が天の邪鬼でなくなっている。

「もう、怒らせるような事しないから、捨てないで・・・」

ひねくれも何もない本心を言う。
が、花花の素直な言葉は聖には届かない。
凍てついた彼の心には届かない。














お疲れ様でした。
道士と弟子とキョンシーと。の番外編、いかがでしたでしょうか?
冷酷道士、聖登場v
なんというか、無理やりな登場で申し訳ないのですが^^;
こうでもしないと繋げられないのです。後に。(涙)
リクエスト(?)にお答えし、急遽長編作に(汗)
それでは、この辺りで。
読んで下さってありがとうございました。今後もどうぞ宜しくお願いいたします。



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