純粋





魔界―――





「―――などの理由から、羅那兄上は人界に留まるそうです」
「そうか……ご苦労であった。下がって良いぞ」
「はっ。失礼します」


羅那は人界に留まったという事を魔王、翠龍に報告していた璃羅。
下がって良いとの言葉を受け謁見の間を後にする。


「はあっ」


宮殿を後にしながら璃羅は溜息をつく。
気になって仕方がない。
何故許可が下りなかったのか。


「蒼凰兄上なら何かご存知か?」


ふともう一人の兄、鬼王である蒼凰の顔が浮かんだ。
あまり堅苦しくなく気軽に話せる兄だ。
璃羅は謎が解けるかもしれないと思い、鬼王城へと馬を走らせることに。
魔王宮殿から鬼王城まではそう遠くはない。
直ぐに着く。



カツ、コツ……



足早に謁見の間へと赴く璃羅。
謁見許可は下りている。


「鬼王様」


室内に入り、鬼王の前へ出て言葉を発すると


「んー、堅苦しい。気にするな、人払いは出来ている」


鬼王、蒼凰は手をひらひらとさせながら堅苦しいと言ってきた。
兄と弟の会話がしたいので人払いをしたのだ。
普通に話して欲しい、というのが蒼凰の考え。


「は、はい」


璃羅は戸惑いながら返事をする。
気にするなと言われても気にしてしまう。
癖になってしまっているから。
意識すればなんとか戻せるだろうけれど。
そんな事を考えていると、蒼凰が言葉を発した。


「で、どうした?璃羅」


早く話せと目が言っている。
璃羅は慌てて話し出す。


「実はどうしても腑に落ちない点がございまして、許されるのなら私の」
「璃羅ー。気にするなと言ったはずだが?」
「え?あ、すみません」


まだ硬かったようだ。
中々難しい。


蒼凰は、どうやって弟口調に戻そうか?と悩んでいる璃羅を、面白そうに見ながら話を進める。


「うん。で、腑に落ちない点というのは羅那絡みの事だな?」
「は、はい。僕は、羅那兄上の言葉に頷けるものがあるんです。人間の娘の一人や二人、大した問題じゃないと」


なんとか感覚を思い出せた璃羅は、普通に話し出した。
どうしても分からないことを。
思っていることを。

蒼凰はというと、一瞬、むーんと困った表情を見せたが、直ぐに笑顔を取り戻した。
あっさり喋る気な顔。


「大した問題じゃない、か。それが大した問題なんだ、これが」
「え?大した問題って、どういうことですか?」


眉間に皺を寄せる璃羅に、ニコニコしながら更にペラペラと話す蒼凰。


「羅那が連れて来ようとした娘はな、実は天界の玉水娘娘殿の娘なんだ」
「はあっ!?玉水娘娘殿って……」


璃羅は玉水娘娘の顔を思い出して固まった。


あれはそう、幼い頃。
父、大龍に連れられ天界に遊びに行ったときのことだ。
お付の者と庭に放置され退屈をした僕は、お付の者の目を盗んで派手な悪戯をした。
見つかって叱られても聞かず、更に悪態をついた。
その時、魔王の息子である僕を遠慮なく捕らえ、容赦ない尻叩きの刑をくらわせたのが、玉水娘娘だった。
あの時は本当に怖かったな。
でも、身分だのなんだのを関係なしにぶつかってきてくれて、嬉しかったっけ。


璃羅は過去を思い出し、どこか柔らかい表情で固まりを解くと、再び兄と向かい合った。


「蒼凰兄上、あの娘は人間ではないんですか?」
「人間だよ。器はな」


サラリと衝撃の告白第二段。


「器はって、羅那兄上と同じ!?」



魂は天人、器は人間の
魂は魔人、器は人間の羅那。



羅那兄上と同じ?
ではあの娘は、あの娘は神通力を使うことが出来る?
そんな風には見えなかったが。


璃羅がぶつぶつと思っていると、蒼凰が割って入ってきた。


「その昔、玉水殿と人間の男の間に生まれた子だ。神通力は封印されているから使えない。
まあ普通の人間と変わらないな。だが魂は確かに天人のもの、玉水殿の娘。無理やり連れ去ったと知れれば―――」
「玉水殿が黙ってはいないと?」
「ああ。下の者ならともかく、上の者が揉めるのはまずい。却下は当然だな」
「……羅那兄上も厄介な相手を追い掛け回しているものですね。僕には考えられない。面倒すぎて」
「ははは、そう言うな。羅那は純粋で一途なんだ」
「純粋、ですか」
「困ってしまうくらいにな。で、何故却下されたのかという件はこれで納得したか?」
「はい。ありがとうございました。……では、僕は任に戻ります」


璃羅は蒼凰に礼をとると、踵を返して鬼王謁見の間を後にした。


「純粋で一途、か」


好意的に考えればそうなのだろう。
璃羅は羅那のことを思い浮かべ、ポツリと呟くと魔界兵達の訓練場へと足を向けた。
これでも一応、将軍なのだ。





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少しずつですが、控えているキャラを出せてきて作者的にも嬉しいです。
それにしても蒼凰、軽いな--; まあ、翠龍が重い感じだから丁度良いかな、なんて。
それでは、今回も読んで下さりありがとうございました。


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