聖が達の元へやって来てから三ヶ月後のある日。
奪取
「はぁ・・・お師匠様いつ帰ってくるのかな〜」
は掃除をしながら呟いた。
大好きなお師匠様、劉道士は皇帝陛下の命を受けしばしの旅に出ている。
も付いて行きたかったのだが、駄目だと言われてしまった。
留守を守れ、と。
「早く帰ってこないかな〜」
一昨日旅立ったばかりだというのに、早くもこの調子。
寂しいという思いが止まらない。が、聖のおかげで大きな孤独は感じていない。
普通のキョンシーとは違い、聖には生きていた頃、人間だった頃の心がある。
だから、一人ぼっちだとは思わないでいられる。
でも・・・
「はぁ〜〜〜」
真昼間からでっかい溜め息。
掃除にも身が入らない。ほうきを持ってレ○レのおじさん状態だ。
掃いているのか散らかしているのか分からない。
ただただ動いているだけの。
そんなを見て、聖もまた溜め息をつく。
『ぁ〜〜〜』
また劉道士のことを考えてる・・・
と、聖は雑巾を絞りながら思っていた。
のことこんなに想ってるのに―――
ちぎれそうなほど雑巾を絞り、ふるふる震える聖。
キョンシーじゃなかったら、生きている普通の男だったら!
と何度も思った。
自分がキョンシーだというのは夢で、朝目覚めたら普通の人間なのではないか?とも。
何度もそう思った。でも・・・
『やっぱり俺、キョンシーなんだよな』
どこかで聞いたことのあるような声が聞こえた。
!?
何だ!?誰だ!?
聖はキョロキョロと辺りを見回した。
が、部屋の中には自分以外には誰もいない。
外も一人だ。では一体?
少しの間固まったが、ふと、もしや?と考えスゥ〜っと息を吸い込むと・・・
『ぶぐばぐ ぶぐばぐ みぶぐばぐ! あわせてぶぐばぐ むぶぐばぐっ』
『農商務省特許局!日本銀行国庫局!専売特許許可局!東京特許許可局ーーっ』
早口言葉を言ってみた。
・・・・・・・・・・
『お、俺の声?だよな?いつの間に・・・』
聞き覚えのある声の正体、それは聖本人。
いつの間にか話せるようになっていた。
懐かしい低音の美声。自分の声!
聖は話せる。ということにしばらく呆然となっていたが、ハッ!と我にかえり、
『俺、話せるのに「あうっ」とか言ってたのか!?クセって怖いな!』
と、今までのことを思い出し恥ずかしさに頭を抱えた。
が、それも数秒。すぐに思った。と話せる!と。
話せればもしかしたらっ!
想いは無意識に体を動かす。聖は靴も履かずに裸足のまま外に飛び出した。
そして、
『!』
と、笑顔で愛しい女性の名を呼び、抱きついた。
ストレートアタック。
そして、抱きつかれた。
???
激しく混乱していた。
劉道士の事を考えていたら突然男性に名前を呼ばれ、ハッ!とし振り返ったら抱きしめられた。
何が何だか分からない。
落ち着いて考えよう。
自分を抱きしめている者の性別は?・・・男性。
身長は?・・・自分の目線が男性の鎖骨の少し下辺りなので高い。
体温は?・・・冷たい。温かくはない。
それから考えられる人物は?・・・
「聖?」
と、落ち着いて考え出た答えをは口に出した。
すると、
『うん、俺』
と答えが帰ってきた。
信じられない!キョンシーが喋るなんて!
は驚き目を見開いた。
心を持っているだけではなく、言葉まで――
本当にキョンシーなのだろうか?
そう思っていると、
『いつの間にか話せるようになってたみたいだよ。気づかなかった。気づいてたらもっと早くと話が出来たのにな』
と嬉しそうに話す聖にさらに優しくギュウっと抱きしめられた。
「きっ、聖!///」
死者。という以外は他の青年となんら変わりのない聖。
そんな聖に抱きしめられたのでは赤面もしてしまう。
わたわたと慌てる。なんとか逃れようとジタバタするが・・・無駄。
相手は男。しかもキョンシーだ。人間の女の力で簡単に逃れられるものではない。
諦め抵抗を止めたは上を向き、
「聖っ、離して?」
と素直にお願いしてみた。
が、返ってきたのは『嫌だ。離さない』という言葉。
一体どうしたというのか?
が困っていると、聖が真面目な口調で語り始めた。
『離したくないんだ。俺、のこと・・・好きだから。分かってる。俺は死んでいて、は生きている。
結ばれるなんて無理だって。だけどさ、止められないんだ。どうしようもないんだ。
は劉道士のことが好きなんだって知ってる。それでも、止まらない。・・・迷惑・・・だよな。
分かってるのに・・・いっそのこと桃剣でサックリやって欲しいよ。叶わないなら、の手で送って欲しい。
俺、うぎゃー!とか言わないからさ。黙って逝くから。だから・・・』
叶わない愛の告白に、途中で悲しくなってきた聖。言葉が途切れてしまった。
黙って逝くから・・・後々まで耳に残るような断末魔の悲鳴は上げないから・・・だから・・・
楽にして欲しい―――――
そう言おうと思ったとき、
「この馬鹿ーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
叫びと共にアッパーが顎に叩き込まれた。
少し吹っ飛ぶ聖。
やったのはもちろん。
手にお札を巻きつけてのアッパーはかなり効く。
『っ!!あ、っ?』
突然の攻撃に驚く。
そんな聖には、
「この馬鹿キョンシー!何なのよ!?三ヶ月前勝手に人の足にしがみついて、気にさせてっ、居候してっ・・・
いるのが当たり前になった頃に突然告白してっ、それでっ、殺してくれなんてっ!何考えてるのよ貴方!?
ふざけた事言ってるともち米風呂に沈めるわよ!?それでっ、桃剣で中かきまぜてやるんだからっ!
お札やニワトリの血も入れてやるわっ!
私がお師匠様の事が好きだって知っているですって?そうよ大好きよ!悪いっ?貴方の事なんて居候としか思ってないわよ!
情しかないの!くやしい?くやしかった情を愛情に変えさせてみなさいよ!!キョンシーだっていいじゃないっ
結ばれることはできなくても、ほんの少しの間でも、一緒にいる事くらい出来るわよ!」
と、涙を浮かべながら叫んだ。
怒っている。本気で怒っている。
それは、自分のことを大切に思ってくれているから。
聖は馬鹿なこと言ったな・・・と反省し、
『ごめん、。さっきの取り消し。桃剣でサックリっての、やっぱ無し。でも、好きっていうのは取り消さない』
と、ニッコリ笑顔でそう言い伝えた。
するとも、
「今度言ったらもち米風呂行き決定だからねっ」
と言い微笑んだ。
少しの間互いに笑いあう。
そして、
『よーし。絶っ対にを振り向かせる!道士には渡さない!』
「頑張ってね〜?私、そう簡単には落ちないわよv」
なんて楽しそうに話しながら、ほうきなどの用具を片付け仲良く家の中へと入っていった。
劉道士、早く帰ってこないとをとられてしまいます。
お疲れ様でした^^
キョンシードリーム二作目、楽しんでいただけましたでしょうか?
今回のお相手は、聖。薄紅のオリジナルキョンシーですv
道士と〜では話せなかった聖。今回は喋らせてみました。
やっぱテレパシーのほうが良かったかな?・・・なんて^^;
それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました!
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