夜行動物が活動しだす時間帯、これでもか!という程の大声を張り上げて街の中を練り歩く者が二人。
黄色い八卦衣を着た若い女性と、官衣を着た若い男性。
道士とキョンシー。





キョンシー・愛





「キョンシー!出て来なさい!」
『おーいキョンシー!線香やるから出て来ーい!』
「ちょっと、なに勝手なこと言ってるの!?あげないでよ!?高いんだからねっ、そのお線香!」
『わ、分かってるよ。おびき寄せる為に言ってるだけだってば』
「そう?ならいいんだけど」


凶暴なキョンシーが暴れまわっているという噂を聞きつけ、隣の隣街から相棒の聖(キョンシー)と乗り込んできた道士、
ササッと退治してササッと礼金を貰いササッと帰りたいのに、凶暴なキョンシーは姿を現さない。
毎日街の人間を惨殺している。と聞いてきたのに。
グルグルと街中を隅々まで見て回るが……


「何処を探してもいないわね」
『今日は出ないつもりなのかもな』


疲れた二人は揃って柳の木の下に腰を下ろした。
休憩休憩。


「ねえ、聖」
『ん?』
「もう面倒くさいからさぁ、あなたが此処にキョンシーを呼んで来てよ」
『またそんな無理を言う』
「無理じゃないー」


無理だ。
無理じゃない。
二人が譲らず話していると――


「っ!」
『っ!』


からっとしていた風が急に生暖かく湿ったものに変わり、不気味な空気が辺りを包んだ。
鳥肌が立つ。
普通の人間ならば気味悪がって足早に去っていくところだが、二人は普通の人間ではない。


「やっと出て来てくれたわね」
『ああ、ご丁寧に至近距離だ』
「どっちにいると思う?」
『普通に考えて側でしょ。俺を襲っても何にもならないし』
「やっぱり?」


キョンシーは余裕の笑みを浮かべて聖と言葉を交わしているの真後ろにいる。
グルグルと唸りながらジッと狙っている。


「……唸ってる」
『あはは。美味しそうな女の子だ、早く食べたいな。って感じ?』
「嫌ー、気持ち悪い。なんて言ってる場合じゃないのよね。んー、せーのっ。で振り返っていく、でイイ?」
『いいよ、いつも通りだ。じゃあ……』
「ええ」


は懐から銭剣をそっと取り出す。
聖はカァ〜とアクビをしながら伸び。
そして



「せーのっ!」
『せーのっ!』



バキィッ!
ドガッ!



掛け声と同時、聖はキョンシーの顎に拳を叩き込み、はグラついたキョンシーの胸に銭剣を突き立てた。
息がぴったりと合っている二人だから成功したのか、ただ単にキョンシーが激弱だったのか、呆気なくかたがついた。
倒れたキョンシーはピクリとも動かない。


「あっけないなー」
『手こずるよりいいだろ?』
「えー、手こずった方が楽しくていい」
『楽しくてって……はぁ』
「なによ」
『なんでもありません』
「なんでもありません。じゃないでしょ、言いなさい」
『うーん……言わない』
「言わない!?そう、じゃあいいわよ。しばらくお線香も蝋燭もトマトもあげないから」
『え゛っ、ちょっ、それは困る』


退治したキョンシーに火を放ち、しっかり燃えているのを確認しながら話している二人。
喧嘩をしているようにも、仲良くじゃれ合っているようにも見える。





そんなこんなで数時間後……





『……寝ちゃったか』


独り言をポツリと漏らしながら山道を歩いている聖。
背には気持ち良さそうに胸を上下させているがいる。
少し前に、「疲れたから背負って」とせがまれ、良いよと受け入れたのでこうなっている。


『……温かいな』


フッと笑みを漏らし、一歩、また一歩と進む。
二人が生活をしている儀荘はまだまだ先。


『ねえ、。あの時、なんでもありませんって言った時……俺、心配してたんだ……
は手こずった方が楽しいって言うけどさ、手こずった時はいつも大怪我をしているだろ?
キョンシーになりかけた事も一度や二度じゃない。……怪我で済んでいるうちは、なりかけで済んでいるうちはいいけど……』


眠っているので返事は返ってこない。
分かっていてポツリポツリと話す。


『済まない事態にでもなったらって……心配で不安で……だから、俺は今日みたいにあっけないくらいの方がいい』


俯き溜息をつく聖。
怪我では済まない事態になどならぬよう自分がもっと強くなればいい。
もっとしっかりを守れるよう強くなればいいのだが……。





「……」


哀願するように話している聖の背では静かに目を開く。
ひんやりと冷たいけれど、大きくて安心できる背に身を預けていた、眠ってはいなかった。
少しまどろんでいただけ。



……聖の馬鹿。
ちゃんと面と向かって言ってよ。
鈍キョンっ。



乙女心の分からない男ね。
なんて思いながら、は再び目を閉じた。
儀荘まで背負って貰う気満々。





もう少しくっ付いていたいの。
いいよね?聖――








お疲れ様でした。このお話はここまでです。
かなり久しぶりなキョンシー聖、いかがでしたでしょうか?
少しは甘く出来たかな?とか思っていたりするのですが…。
まだまだかなぁ…。
と、考えながら……失礼します。読んで下さっておりがとうございました。


TOP

戻る