まだ空気が肌寒く感じられる季節の深夜。
「ふぅ・・・やっぱり・・・君がいないとよく眠れない」
浅い眠りから覚めた羅那は、ムクリと上半身を起こした。
長い髪をかきあげ、ため息を一つ。想うのは彼女のことばかり・・・
「・・・、君は、いつになったら帰ってきてくれる?・・・怒ってないから、これっぽっちも怒ってないから・・・だから」





早く俺の元へ帰っておいで―――――







前世の記憶





昼・・・
「もうっ。起きてよ〜!」
羅那の最愛の少女、は羅那の身体の上に乗っかり、くすぐったりして、早く起きて!と騒ぐ。
昼食は出来ているのに、いつまで待っても起きて来ない愛しい人。もう我慢できない!


ぼふっ ぼふぼふぼふっ ぼふっ


叩き起こし作戦。枕で叩きまくる。
今日は羅那に道士の仕事を休んでもらった。一緒に買い物に出かける。と、前々から約束していたから。
滅多に出来ることではない。それなのに、まだ起きない。起きてくれない。
街でただ一人の道士である羅那は、毎日何かと忙しい。
気功で病人の治療をしたり、家相や相性などを占ったり、キョンシー隊の出迎えをしたり・・・
疲れているのだ。分かっていても、やはり寂しくて・・・かまって欲しくて・・・


「羅ぁ〜那っ!もうーっ!起きろ起きろ起きろーっ!」
激しく枕を叩きつける。と、
「んっ・・・」
羅那が薄っすら目を開けた。
まだ眠い・・・という顔。
だが、寝かせるわけにはいかない。は羅那が再び寝に入らないよう、ゆさゆさ揺すりながら話しかける。
「駄目っ。もう起きて!今日は・・・きゃっ?!」
話していたら、羅那が突然寝返った。そのせいではバランスを崩してベッド上に転がる。
「んっ、もう〜」
は、何するのっ。と起き上がろうとしたが、無理。起き上がれない。
羅那の腕の中にすっぽりと包まれてしまっているから。
「・・・とっくに起きてたんでしょっ」
ぷくーっと脹れながらが言うと羅那は、
「あれだけ騒がれればな」
微笑み、ちゅっと額に口付けてきた。

嬉しくて、くすぐったくて・・・幸せ。
優しい微笑みを浮かべて口付けなんて落とされたら、許したくなってしまう。
でも・・・ちょっとくやしい。

は頬を朱に染めながら、
「早く起きてっ。出かけるって、言ったでしょ?支度して早く来て!御飯作ってあるからっ」
言い、羅那の腕をくぐり抜け起き上がった。昼食、湯はきっと冷めてしまった。温めなおさなきゃ。と思っている。
スタスタと寝所を出て行こうとする。その背に羅那は、
「忘れてないよ、我が姫」
と、愛しさを込めまくった声を投げかけた。
その言葉には頬の朱を濃くし、足をとめ振り返ると、
「っ・・・朝のお勤め(経典読み)は忘れても、私との約束は覚えていてくれている。喜ばしいわねっ」
照れ隠しに意地悪を言い、軽く羅那を睨んだ。
すると羅那はクスっと笑い、拝むポーズをとる。
そして、「なむなむ」と、子供か?と思うような唱え方をし、「これでよしっ」と頷いた。
は半分呆れ、

「バチ当たりっ!そんなことしてると玄陰(魔界・地獄ともいう)に落とされちゃうからっ」

叫び言い、近くにあった着替えをバサッと投げつけ行ってしまった。
羅那は服を受け取り、ホントには可愛いなっ。なんて言ってご機嫌。

玄陰・・・落とされても故郷だ・・・とは言わないでおいた。
自分は玄陰の王と人間の女の間に生まれた。
力を封印されてるから普段はほとんど人間だけど・・・なんて、ややこしい説明をする必要はない。

「んーーー・・・ふあぁ」

羅那は大きくのびをすると、ベッドから起き出し支度をしだした。
早く行ってやらないと愛しい姫君は今度こそ本気で怒り出す。
そういえば、食事が出来ていると言っていたな。の手料理は初めてだ。
自然と笑顔になる羅那。
彼女にばかり家事をさせては!と、食事はいつも羅那が作っていた。
愛しい女性の初手料理!支度はいつもより早く終わる。



数分後



身支度を整え食事を取るための部屋まで行くと・・・

「・・・・・・・・・・」

羅那は固まった。
食卓の上が小さな玄陰と化していたから。

鍋の中、ボコボコと煮えたぎっている麻婆豆腐と思われる真っ赤な物。
でろ〜ん。という効果音がよく似合う春巻き。
胃の薬より苦そうな、黒焦げの唐揚げ。
出汁に使った材料がそのまま入っているらしい湯。
一体何を入れたんだ?!というような、緑色の粥。

羅那、どうにも動けない。
ただただ、端整な顔をハニワのようにして立っている。
と、お茶を持ったが台所から出てきた。
「羅那?何してるの?早く座って。温かいうちに食べて欲しいのっ」
早く早くっ!
眩しい笑顔ですすめる
「えっ、あ、ああ」
羅那、フリーズ解除で席に着く。
何を固まっている!の手料理、不味いわけがない。見た目なんかどうでもいい。料理は愛情!
そう思いながら、が取り分けてくれた料理を受け取り、「いただきます」と箸をつけた。


1.5秒後


「ぐっ、ごふっっげほげほっ」

むせ込んだ。
後ろを向き、激しく咽ている羅那には、「だっ、大丈夫?!」
と席を立ち、お茶を手渡す。

ごくごくごく・・・

一気に飲み干す羅那。かなり涙目。
「っ・・はぁ・・・」
お茶を飲み干し落ち着いたが、ぐったり。という感じ。
は、どうしたの?どこか痛いの?と、心配そうに羅那の背をさする。
「羅那?ねっ、大丈夫?」
自分の料理が原因だとは思っていない
羅那は心配そうに自分を覗き込むに、君の作った殺人的辛さの麻婆豆腐に危うく玄陰送りにされそうになった。なんて言うわけにはいかず、
「大丈夫だよ。少し気管にきただけだから、心配ない」
にっこり微笑み、再び食事を始めようと席を直した。
も、「そっか、どっか悪いのかなって心配しちゃった。治まって良かったねっ」と言いながら席に戻った。

お食事タイム

羅那は「ごふっ」「がっ・・・」「ぅぐっ」という声を抑え、涙目になりながら食を進める。
がこの料理を普通に食しているという事を不思議に思う余裕もなく、ただひたすら食な羅那。

は、羅那ってば涙目になってる。心底喜んでくれてるんだっ。作って良かったvと思いながら、ニコニコ顔で食事を進めている。
また作ってあげよっv今度は羅那の大好きなフカヒレスープがいいかなっ。
もうどうにも止まらない。





食事の後片付けも済み、少しの休憩後・・・

「さて、と。そろそろ行くか?」
羅那はの頭をぽむぽむっと撫で叩きながら、出かけようか。と言う。
その言葉を聞きは、待ってました!と大きく頷くと、
「お出かけ〜」
大はしゃぎで羅那の腕に抱きつき、早く行こっ!と瞳をキラキラ輝かせ、クイクイと羅那を引っ張り外へと向かう。
「こら、。そんなに引っ張るな」
のはしゃぎぶりを嬉しく思う羅那。
と、儀荘の出入り口まで来たとき、はついっと羅那の腕を放し、一人で歩きだした。
羅那とは恋人という仲だが、年が離れているので表に出せば中傷の的になる。
迷惑をかけたくないと思い、一緒に出かけるときはいつも少し離れ弟子のような格好をとっている。
羅那が望んだことではない。が勝手にそうしている。

仕方ないよ・・・関係を大っぴらにしたら・・・
男性達は羅那のことを、「ロリコン道士」「行くあてのない娘を拾い、上手い事夜の相手に仕立て上げた」などと言うに決まっている。
女性達は自分のことを、「身体を使って道士様に近づいた淫乱女」「あんなガキがお相手だなんて許せない!」だのと言う。きっと。

は少しシュンと落ち込んだが、今から出かけるというのに!と気持ちを切り替え振り返ると、
「何処からいく?」
にっこり笑い、少し後ろの羅那に行き先を聞きながら扉を開けた。
羅那は、「決めてなかったな。まぁ、ふらふらするのもいいだろう」
と言って、の手を取り指を絡めてきた。
繋いだ手から、温もり・脈が伝わる。
「羅っ・・・駄目!」
、本当はそのまま繋いでいたい。と思ったが、中傷されることを恐れ慌てて手をほどく。
そんなに羅那は「やれやれ」といった様子で首を振り、
、何も隠す事なんてないだろう?言いたい奴には言わせてやるさ。未来の妻といちゃついて何が悪い?」
言うと、再びの手をとり歩き出した。
「・・・ん・・・」
未来の妻。という羅那の言葉が嬉しかった。頷き、大人しく手を繋いだまま歩く。
頬は桃色。



・・・・・



・・・たしか、この後は・・・
手を繋いで、幸せを一杯に感じながら色々と街を見て回って、新しい服や食器を買って、帰ったんだ。
ああ、君によく似合う髪飾りを見つけて、プレゼントもしたね。愛らしい大きな瞳を潤ませて喜んでくれた。



幸せだった頃の記憶・・・



「・・・何処にいる?君は今、何処に?・・・俺の事、忘れてしまっているだろうね。・・・いいよ、見つけ出して思い出させてあげる。
そして・・・閉じ込めてしまおうね?もう、傷つかなくてすむように。・・・怖がらなくていいんだ。君のした事、怒ってないよ。
だから、だから・・・」




早く帰っておいで?―――




ベッドから起き出し、今日も羅那は愛しい者を探す。
世界を、片端から術で見回す。
必要なら、似た人物を手にかけ、魂を見る。
咎人・鬼・・・何と言われようがかまわない。
全ては、愛しい彼女を取り戻すため。




必ず、見つけ出してあげるからね?待っていて・・・










と、ここまでですっ><
―――の後に、自分(羅那)を抱きしめて(さん抱えてるつもり)「くくっ、あははは」と笑わせようかと思ったのですが〜
さすがにそれはヤバイ人でしょう!ということで、止めました。
いえ、もう十分ヤバイ人な羅那なのですが・・・。
それでは、どうもありがとうございましたっ!



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