君はラウ・ル・クルーゼを覚えているか?
私の友人だった男だ。
今はもういない。
先の戦争で年若い妻を残し散ってしまった。
そして今、彼の妻は私の妻として幸せに暮らしている。
夫を失い悲しみに暮れる彼女を支え、励まし続けるうちに愛が芽生え結婚した。
今日はこの私の妻を紹介しようと思う。
私の身を案じて追ってきてくれた健気な私の妻を。
私達の理想の世界を作る為に再び戦場に立つと言ってくれた妻を―――
逃れられぬ運命
「タリア、赤服のパイロット達とメイリン・ホークをホテルの一室に集めて欲しいのだが、いいかな?」
「は?……ええ、分かりました」
何故パイロット達を集める必要があるのか分からない。
分からないが、今の状態なら呼び集めても問題はないだろう。
艦長タリアはメイリンに命じ、アスラン・シン・レイ・ルナマリアをディオキアホテルの一室に呼び集めた。
数分後、パイロット達は直ぐに集まった。
見慣れない者もいる。
確かあの時もいたフェイス……
この人の紹介か?
皆不思議に思いながらもただ黙って議長が来るのを待った。
そして―――
「待たせてしまって済まない。少し準備に手間取ってしまってね」
議長がやってきた。
誰か連れている。
小柄さからいって女性のようだがまだよく見えない。
よく見える位置に立った時、アスランの顔が一気に青ざめた。
目を見開き、恐怖に引きつった表情に変わった。
なっ、何故!?
何故あの人がここに!?
そわそわするアスランに、シンが冷たく小声で言った。
「どうかしたんですか?」
「い、いや……」
何でもない。と誤魔化すアスラン。
議長、ギルバートは皆の前に連れて来た女性と立つと、嬉しそうに話し出した。
「急に集めて済まないね。どうしても紹介したい人がいて集まってもらったのだよ。紹介しよう。私の愛妻、だ」
議長の突然の「私の妻です」発言に、タリアとアーサーは驚かなかった。
ああ、噂の……程度。
レイとフェイス―ハイネも驚かなかった。
知っていたから。
驚いたのはシンとルナマリアとメイリンだ。
アスランは胃を押さえている。
「おっ、奥様、でありますか?」
「知りませんでした」
「綺麗な人……」
ビックリしたりウットリしたり。
アスランは心の中で叫んだ。
皆がのんきにしていられるのは知らないからだ!
彼女の恐ろしさを!
カツ、コツ、カツン……
胃を押さえて項垂れているアスランの目の前にが立った。
ビクッとするアスラン。
「あ、あのっ……」
「アスラン、お久しぶりね。私もミネルバのクルーになるの。"また"宜しくお願いするわ」
宜しくお願いされたくない。
ザフトに階級はないが軍服、凄い事になっているじゃないか。
泣きたい気持ちを抑えて敬礼する。
「はっ、こちらこそ宜しくお願いいたします」
「また楽しくやりましょうね」
「うん、アスランはとは顔見知りどころではないからね、頼むよ」
議長にまで宜しくされた。
もう泣きたい。
他のクルー達は羨望の眼差しで見ているし。
それから十数分後、解散となった。
やはりデュランダル夫人の顔見せだけだったらしい。
トボトボと部屋に帰るアスランに、背後から声がかけられた。
「よお、有名人っ」
「?」
「休暇明けからミネルバに配属が決まっている、ハイネ・ヴェステンフルスだ。宜しくな」
「あ、ええ、こちらこそ」
「クルーゼ隊にいたんだってな?聞いてるぜ?散々な目にあってたってこと」
誰に聞いたのか。
そんなことはどうでも良い。
ただ、ハイネなら分かってくれそうな気がした。
「ああ、いや、散々という程では」
あった。
「割り切れよ。でなきゃ、胃に穴が開くぞ?来てしまったものは仕方がない。
彼女は議長夫人で、フェイスで司令官。まだ若いから多少の我侭も出る。そうだろう?」
「ああ」
分かっているさ。
それくらい。
だけど……
理解は出来ても納得出来ない事もある!!
というか、ここまで来ると理解も納得も出来なくなってくる。
また脱走するしかないのか。
アスランはアークエンジェルの事を思い溜息をついた。
もういい。
今日は部屋に戻って寝よう。
アスランはハイネと別れ部屋へ。
その頃―――
「ねえ、ギル?ホントに帰っちゃうの?」
「ああ、君を置いて帰りたくはないがね、仕方がない」
「そうね……決心はしたけど、やっぱり寂しいな」
「そう言うな。私も同じ気持ちなのだから」
「いっぱいメールしてね?」
「ああ、するとも」
デュランダル夫妻は部屋でイチャついていた。
仮面の前夫も微笑んで見てい……ないかもしれない。
悪いな、ラウ。
は私のものだ。
いなくなった君が悪いのだよ。
恨まないでくれたまえ。
幸せにするから。
おわり
やってしまいました。
クルーゼ妻、今度はデュランダル妻です。
未亡人のままでも良かったのですが、せっかく(?)なので。
これからまた暴れるのかどうか、自分でも不明です。
それでは、読んでくださってありがとうございました。
TOP
戻る