ミネルバ、シン&レイの部屋―――





破壊的な奥様





「はあ、マユ……」


シンはベッドに横たわりながら妹の形見である携帯を見つめていた。
議長の奥様が戦艦の魔女だったなんて信じたくない。
信じたくないけれど、あれは本物だ。
どうしたら身を守れるのか分からない。
頼りのレイは奥様……の支配下にある。
下手なこと言ったら絶対にチクられる。
レイがそんな事をするはずは……とも思うが、何だかチクられる気がしてならない。


アスラン……しかいないんだよな。


何かとぶつかってばかりいる。
あまり話したくはないが、話せるのは彼くらいだ。
彼は先の戦争時から彼女の被害にあっている。
解ってくれるだろう。
この気持。


「レイ、俺、ちょっと」
「艦内の散歩か?たまには良いだろう」
「ああ、じゃあ」


シンは携帯を元の場所に戻し、起き上がると部屋を出た。
目指すはアスランの部屋。
直ぐに着く。


なんて声をかけようか……。


考えていたらシュンッとドアが開き、アスランが出てきた。


「っ、シン?」
「あ……そのっ」
「……多分、同じ事を考えていた。中で話そう」


アスランはシンを部屋に入れ、ロックをかけた。
聞かれたら終わる。


「……さんの事だな?」
「ええ。どうしたら良いのか……正直分かりません」
「俺もだ」


どうしたら良いのかなんて分からない。
まさか、プラントへ帰って下さい!なんて言えないし。
重苦しい空気が室内に漂う。


耐えるしかないのか?
耐え抜くしか……無理だ。


「あのっ、もういっそ議長にお話しましょう!議長なら解ってくださいますよ!」
「馬鹿か!?そんなのは自殺行為だ!さんの前夫、クルーゼ隊長は……含みはあったが最高の指揮官だった。
だが、さんの事となるとまるで別人だった!俺もっ、父上も……酷い目に合わされた。
さん絡みでクルーゼ隊長から銃を突きつけられたり……」
「議長はその隊長とは違います!きっと―」
「甘い!議長も……多分同じだ。隊長と。違うと思っていたら既に相談済みだ」
「そんな……」


室内が絶望の空気に包まれた。
打つ手なし。
二人がそう思った時―――


「アスラーン?開かないんだけど?ねぇー」


戸越に話題に上っていたの声が。
ドンドンッ!と激しいノック付き。


「あ、開ける……んですか?」
「ああ、開けるしか―――」


アスランがやれやれといった感じで立ち上がったと同時……





ギュイィィィィィィィィィン!!
ガッ、ガガガガガガガガガガガガッ!!
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!!





凄まじい轟音と共に戸が削られる音がしだした。





「ななっ、なんなんです!?」
「言わなくても解るだろう!」
「まさかっ!」


そのまさかである。



「アースーラーン!」



無邪気な美声が轟音に混じって聞こえる。
戸を破壊しようとしているのは間違いなく彼女だ。


「なっ、なんなんだよあの人はぁっ!?」
「ロックがかかっていて入れなかったから戸を破壊して入ろうということだ。これが……やり方だ」
「俺、なんか胃が……」
「覚悟を決めろ。常に笑顔、逆らわず。これが生き残る術だ」
「やって……みます」


戸が削られだして数分、アスランの部屋の戸に穴が開いた。
人が一人通れる穴。
今すぐ開けますから止めてください、とは言えなかった。
破壊する気全開なのを感じたから。
もう好きにして下さい、と。
戸は後で替えて貰えば良い。


「アッスランっと、シンも一緒だったの?なぁに?二人で何を話してたの?」
「あ、その……」
「今後の事です。機体の事とか、色々と相談に乗っていました」


サラリとかわすアスラン、経験者は少し違う。
はたいして気にも止めず、ふーん。と言い放った。
手には超高性能、何でもぶった切れますチェーンソーがブルブルンいっている。
に戸を壊した事を謝罪する素振りは見えない。
気にもしてない。
とめてない。


「あ、あのね、もうすぐギルが来るの。もう嬉しくって、お気に入りのアスランに一番に知らせてあげようと思ったわけ。
ギルは貴方の様子を気にしているから。あ、シン?ギルは貴方にも期待をしているみたいよ?良かったわね」
「はっ、光栄であります!」
「わざわざありがとうございます。直ぐにお迎えの準備をしますので」


シンもアスランも満面の笑み。
こんなところで死んでたまるか。
敬礼をしながらの後ろ姿を見送る。


「……これで……いいんですか?」
「ああ……今のところこうしているしかないからな」
「俺達、何なんですか?」
「ザフトの兵だが……さんに気に入られた者……周りは羨ましく思うだろうが……」
「不幸ですね」
「ああ」





そして十数分後―――


「やあ、わざわざ出迎えてもらってすまないね」
「ギルー!」
っ、元気そうで嬉しいよ。いつも気が気でなくてね、寂しくて泣いているのではとか」
「大丈夫よ。毎日連絡しているもの。でも……やっぱり生ギルが一番いい」
「私も同じだよ」


ギルバートと、勢揃いしているクルー達の事など気にせずイチャつき出した。
抱き合い、見つめあう。
ギルバートはをひょいっと姫抱きして嬉しそうだ。


アスランの言った、クルーゼと議長、どちらも同じ。
大正解だった。
奥様が!なんて言った日にはどうなっていたか……。


何も言わなくて良かった。



シンは心底そう思った。





おわり





デュランダル妻、今回はアスランの部屋の戸を壊しました。
手段を選ばないさん大好きv
それでは、読んでくださってありがとうございましたv



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