トマト事件
「ふんふんふ〜ん♪」
つかの間の平和が訪れている地球連合軍の戦艦内。
それはいくらなんでもヤバイだろう!というくらい明るい鼻歌が流れている。
歌っているのは・・・。
アズラエルが気に入って連れて来た、通信担当の女性兵だ。
「シャニ、起きてるかな〜」
愛しい男性のことを思い浮かべ、とても幸せそうな顔をして歩いている。
目指すは恋人、シャニの部屋。
戦争中だなんて、まったく考えられない。
何処か遠い世界のことのようだ。
「何してすごそう?音楽もいいけど、たまには他のことしたい。時間制限あるんだから・・・」
(楽しげだったり、少しむくれたり、クルクル変わる表情が中々面白くて可愛い。
これも人気の秘密か?)
シャニは、戦闘がないかぎり大抵は暇。
でも、はそうはいかない。交代の時間にならなければ、席を立てないのだ。
しかも、交代の時間には必ずアズラエルが現れる。
この人をマクのにも時間がかかる。
前は仕事中も隣にへばりついていたのだが、邪魔だとやんわり告げると、仕事中は部屋に戻ってくれるようになった。
これだけでも大分マシ。
色々考えているうちに、シャニの部屋にたどり着いた。
ビーッ
「シャニ〜入っていい?」
いくら恋人同士とはいえ、いきなり部屋に入るのは失礼だ。入ってもいいか尋ねる。
「・・・・・・」
おかしい。いつもなら、すぐに返事があるのに・・・。
「シャニ?」
いないの?と思ったが、中に人の気配がある。イコール、いる。
「入っちゃうぞ〜♪、入っちゃうからね〜?」
甘えた言い方をしてみた。これで返事がくるだろう。そう思ったのに・・・返事はない。
「・・・シャニ?・・・入るよ?」
いつもと違うことに少し不安を抱きつつ、部屋のドアを開け、中に入った。
が、カーテンも閉められ電気も消されているため薄暗い。
昼間でなければ、真っ暗だろう。
「シャニ〜?」
寝てるのかな?そう思いつつ、ベッドに近づく。
ベッドの側まで進んだところ・・・ズルッ!
「うひゃあ!?」
急に足を滑らせ、転んでしまった。
「な、なんなのさ〜(涙)」
涙目になりながらも、手で床をまさぐり原因を探す。
ヌルッ・・・
「っ!?」
まさぐっていた片手に、何かヌルっとした液体がついたのを感じた。
何なのだろう?ジュースではなさそうだ。
液体の正体を確かめるため、はゆっくりと気をつけながら立ち上がり、カーテンを開けた。
そして、液体のついた手を見ると・・・
「!!!!!」
は倒れそうだった。手についていた液体は、とても赤かったから。
これは・・・血・・・?
「あっ・・・し、シャ、シャニ!?」
勢いよくベッドのほうを振り返ると、そこには同じ赤い液体を服につけたシャニが横たわっていた。
視力の良いの目にもう一つ衝撃的なものが見えた。口の端にもついている赤い液体。
何が何だか分からないが、涙があふれ出てくる。
「シャニっ・・・シャニィ?ねっ、起きてよ・・・」
呼びかけながら、ガクガク震える足でベッドの横まで行く。
「・・・・・・」
さっきから何度も呼びかけているのに返事をしてくれない。
目を閉じ、横たわっているだけ。
「何があったの!?シャニー!!死んじゃ嫌だよっ!ねぇっ!目を開けてよーっ!」
大粒の涙が止まる気配もなく流れ落ちる。
「ううっ、シャ、ニィ・・・」
動かないシャニの胸に顔をうずめ、泣きじゃくる。
すると・・・
「ん・・・」
今まで無反応だったシャニが微かに声を漏らした。
「シャニ!」
ガバっと顔を上げたの目に映ったのは、ボーっとした目で自分を見ているシャニの顔だった。
生きてる!死んでなんかない!喜びがの心の中を支配する。
「・・・、何で泣いてんの?」
シャニは心配そうに聞きながら、暖かい手での頬に触れ、涙を拭ってやる。
それがくすぐったくて、はさっきまでのことを忘れてしまいそうになる。
が!忘れるわけにはいかない!いったい何だったのかを聞かねば!
「・・・シャニ、それ、何?」
赤い液体が付いた場初を指差しながら、ストレートに問う。
「へ?」
指摘された箇所に目を落とすシャニ。そして、彼の口から赤い液体の謎が明かされた。
「ああ、これ。トマトとケチャップだと思う」
指摘済みの口の端の液体を拭いながら、さらっと言うシャニ。
一方は・・・
「はあ!?トマトとケチャプ〜?」
思ってもいなかった答えに、思わず間の抜けた声を上げてしまった。
何故にそんなものが服に付いたのか・・・。
そんなの心を感じ取ったのか、シャニが話し始めた。
「夜中に小腹がすいて、冷蔵庫で冷やしてたトマトを食べようと思いついたんだ」
うんうん。と頷き、黙って聞いている。
「で、一緒に冷やしてたケチャップ付けたら美味いかな〜なんて思って、たっぷりかけた」
それで?と目で問う。
「かぶりついて、特別美味くもないけど不味くもない。そんなこと考えつつベッドに戻って・・・」
戻って?その先を聞きたい!このさい、ベッドの上で食べ物食べるな!という突っ込みは置いておく。
「寝た。トマト食べかけだったけど、眠くなったし。
皿に置いてラップかけて冷蔵庫戻すの面倒だから、手に持ったまま寝たんだ」
そこまで聞いて、ガクーンとなってしまった。
早い話が、その手に持ったままのケチャップ付きトマトを寝ている間に潰してしまったのだ。
これで服や口の端に付いた液体の謎は解けた。が、まだ一つ。そう、床についていた液体は?
これについても聞く。
「ああ、一回落としたから」
苦笑いしながら答えたシャニ。
・・・・・・信じられないことを聞いた気がした。
聞き間違いでは?と思い、はもう一回聞いてみることにした。
「あの、シャニ?今なんて?」
嘘だと言ってくれ。そう思ったが・・・
「ん?一回落としたって言ったの」
×〇△#*〜〜!!!
聞き間違いではなかった。
「シャニ!貴方、床に落としたトマト食べたの!?」
信じられない!といった顔で迫る。
そんなにシャニは、ふっと微笑んで答えた。
「大丈夫だよ。3秒以内に拾ったから」
そういう問題じゃない!!
何秒で拾おうが、落としたことに変わりはないのだ。
が、そんなことはどうでもいい気がしてきた。
なんともなく、無事でいてくれたのだから。
下を向き、そんなふうに思っていたにシャニが呼びかけた。
「・・・」
いつもよりもっと優しい声で呼ばれて、顔をあげた瞬間
「!!!///」
シャニの暖かい唇が、の唇をおおった。
甘い、甘いキス。
どのくらい時間が過ぎただろう?きっと、ほんの数十秒。でも、にはもっと長く感じられた。
トマトに負けないくらい真っ赤になり俯いているを、優しく抱きしめるシャニ。
「ゴメンネ、。心配させて。トマトのこともだけど、俺、完全熟睡してて起きなかった。不安になったよね。ゴメン」
の頭を撫でながら、謝るシャニ。
「・・・びっくりしたんだからね・・・でも、許す」
幸せ感が二人を包み込む。
しばしの抱擁後。
「・・・ねぇ、銀・・・」
耳元でシャニが囁いた。
「何?」
胸にうずめていた顔を上げ、シャニの顔を見た。
すると、シャニはニッと笑ってが固まることを言った。
「俺、今すぐ抱きたい」
「///!!///」
、顔が噴火寸前。
「シャ、ニっ///」
「駄目?大丈夫。俺、ちゃんと優しくできるよ?」
そう言い、手を伸ばそうとした瞬間・・・
「ううぅおぉらあぁぁぁ!」
「必殺・撃滅・抹殺!」
「あーもうっ、ダメダメです!」
ドッガーンっ!!!
叫びと共に、ドアが破壊された。
破壊されると同時に、血走った目のオルガ・クロト・アズラエルが入ってきた。
「えっ・・・あっ・・・な、何っ?」
突然の出来事に、びっくりしている。
「・・・うざぁーい(怒)」
邪魔をされ、かなりご立腹のシャニ。
「てめぇー!シャニィ!」
「俺のに手ぇ出すんじゃねぇよ!」
「何だってを部屋につれこんでんだよぉ!この僕に何のことわりもなく勝手に!」
叫びまくる三人。
特にアズラエル氏、興奮しすぎて言葉使いが乱れてます。
そんな三人を止めるのは、やはり。
「わわわっ、落ち着いてくださいよっ!私は別に連れ込まれたわけじゃないしっ。自分の意思で・・・」
「「「!こんな奴かばわなくてもいいんだぜ!(だよ!・ですよ!)」」」
必死に止める。が、興奮したこの三人、中々ひかない。
「お前らっお前らっお前らーっ!!」
せっかくの二人きりの時間、邪魔されたシャニも怒りに興奮しだす。
もう止められない。
無理だ、自分でも止められない。そう悟ったは、そ〜っと部屋から出て避難する。
部屋から出て数秒後、大人気ない理事まで加わった男の戦いが始まった。
の恋のお相手はシャニだというのに、諦められないオルガ・クロト・アズラエルの三人。
いつも乱入しては争奪戦を繰り広げる。
「はぁ〜。まただよ・・・。もうっ」
せっかくシャニと幸せな時間を過ごしていたのに。
ぶつぶつと文句を言いながら、は自室へ向かって歩き出した。
途中、なんとなく三人の部屋を見て回ると・・・
「おらおらおらぁー!」
「邪魔だよおっさん!」
「お仕置きボンバー!」
「うざい!うざぁ〜い!」
何故か、どの部屋からもシャニの部屋のやり取りが聞こえた。
「・・・盗っ聴!?」
思わずクロト口調になる。
そう、何故三人が乱入できたか・・・それは、シャニの部屋に仕掛けられた盗聴器のおかげ。
ちなみに、これはの部屋にも仕掛けられている。
何やら良い感じの雰囲気を感じ取り、慌てて邪魔しにかけつけたのだ。
「・・・・・・許さないからーっ!」
盗聴されていたことが、の怒りの爆発に繋がった。
ダッシュでシャニの部屋へ向かう。
どうなるオルガ・クロト・アズラエル!
こうして、今日もつかの間の平和な時間は過ぎていく。
めでたし?
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