その日はとても静かだった。
・・・・・彼女が来るまでは・・・・・
Cyclone Baby
いつものようにヴェサリウスのブリッジでクルーゼとアデスが話していると、兵が突然声をあげた。
「艦長!前方よりMS接近!」
敵か!?と構えた上官二人に兵は言葉を続ける。
「ZGMF-515シグー一機!こ、これは・・・」
信じられない!という表情で固まっている兵。
「どうした!?何だというのだ!?」
早く言えと怒鳴るアデス。その横でただ黙っているクルーゼ。
クルーゼには何となく分かった。シグーに乗っているのは多分・・・
「はっ!それが・・・凄まじいスピードで本艦に近づいて来ています!シグーでこのスピードは・・・」
戸惑う兵。
間違いない。彼女だ!
「アデス!艦内放送だ!今向かって来ているシグーのパイロットに逆らうな。慎重に接しろ。と!」
少し慌て気味に命令を下すクルーゼに、
「隊長、いったいどういうことなのですか?」
アデスは聞きかえしてしまった。分けのわからない状況、無理もない。
が、クルーゼはただ、
「・・・アデス、私の言った通りにせねばヴェサリウスの全部屋が医務室になるぞ?」
と言い、ブリッジを出て行ってしまった。
おそらく、もうすぐ来るであろう人物の迎え。
「・・・・・」
何なのだろう?そんなに危険な人物なのか?クルーゼ隊長を乱すとは、いったい何隊の隊長なのだろう?
アデスは色々考えたが、上官の命令。逆らうわけにはいかず、命令を実行した。
10分後
シュンっとブリッジの扉が開いた。
入ってきたのはクルーゼ隊長と、一人の小柄な美しい女性。クルーゼと同じ白の軍服を着ている。
アデスは戻ってきた上官にビシっと敬礼し、「そちらの方は・・・?」と尋ねた。
濃いめの金髪が眩しい。赤い瞳は宝石のよう。コーディネイターの中でもかなりの美人。
女性と言うには少し幼い感じだが、少女と言うのも合わない。不思議な感じだ。
アデスがそんな事を思っていると、
「ジロジロ見ないでよ!失礼ねっ!」
整った顔を嫌そうに歪めて女性が言った。
「はっ、失礼しました」
き、キツイ!と思いつつ、ビシっと敬礼するアデス。
もうこんな職嫌だ。そう思い始めていると、
「・・・、あまりいじめるな」
アデスを少し気の毒に思ったクルーゼが助け舟を出した。
そして、
「すまんな、アデス。どうも私の妻は気が短くてね。だが、可愛いところも沢山あるのだよ」
と、さり気に自分の妻であると告げた。
それを聞き、ビックリ固まるアデス。
「お・・・奥様、でありますか?」
ごく普通の反応。
「、自己紹介を」
ラウが壊れやすい宝を扱うような優しい口調で言うと、ムスっとしながらもは自己紹介を始めた。
「・クルーゼ。一応軍医。だけど、MSも乗れるし普通に戦闘もできる。現在18歳。二年前にラウと結婚したの。
知りたいのはこれくらいでしょ?」
少し投げやりだが、別にアデスが嫌いなわけではない。ジロジロ見るな、と言ったのも半分言いがかり。
実は、中々ラウに会えないので寂しくなって飛んできたのだ。無理やり休みを貰って。
直ぐに二人きりになれると思ったのに、まずは艦長と会いなさい。と言われてしまった。
それでむくれているのだ。
それはそうと、上官の妻に自己紹介をされたアデス。
「あ、自分は・・・」
慌てて自己紹介をしようとしたところ、
「興味ないからいい。名前はアデスでしょ?それだけ知ってればいいの」
あっさりに打ち切られてしまった。
哀れアデス。今日は厄日かもしれない。ドナドナが流れてきそうな背中になっている。
そんなアデスに気づくはずもない。
「ラウ〜!早く!早くお部屋行こう?」
愛しい旦那様の腕を引っ張り暴れている。身長差が激しいため、子供がまとわりついているようにも見える。
ラウは内心「可愛いな」などと思っているものの、態度に出すわけにはいかない。
「、私はまだこの場を離れるわけにはいかないのだよ。夜まで待ちなさい」
言い聞かせるように優しくに言う。
が、はもう待てなかった。
「嫌!待てない!だって、お休み1日しか貰えなかったんだもの!それに、今は敵いないし、今日はもう遭遇もしないから大丈夫!
だからお部屋行こうvねっ、ラウ〜」
まるで子供のように駄々をこねるに、少し困るラウ。を腕の中に仕舞い込み、うーん。と考えている。
の頭を撫でたり、頬をつついたりしては幸せそうな笑みを浮かべるラウ。
もう半分クルーゼ夫妻の世界。
今にもキスシーンを披露しそうな2人を見て、ちょっと待って下さい!駄目です!と、元の世界に戻すアデス。
「あのっ・・・敵はもういないというのは・・・」
慎重に接しろ。という言葉が頭をかすめたため、かなり引き腰。
恐る恐る、刺激しないように聞いたつもりなのだが・・・
ターンッ!!
一発の弾丸がアデスの帽子をかすめた。
撃ったのは。
「アデスうるさい!邪魔する気なのっ!?」
せっかくいい感じだったのに。
・・・怒っているようだ。
「もも、申し訳ありませんっ・・・」
涙目のアデス。
ヴェサリウス全部屋が医務室・・・分かった気がした。
妻の暴挙と部下の哀れな姿を見たラウは―
はっ!と我に返り、
「、気持ちは分かるが銃を抜くのはいただけないな。それに、私も気になる。敵はもういない。というのは?」
やっと隊長らしいことを言った。
すると、今まで怒っていたの顔がにこやかになり、
「あのね、来る途中で敵戦艦と遭遇したの。で、邪魔だったから壊してきたv」
と、無邪気に言い放った。
壊してきた。との言葉を聞いたラウは苦笑。アデスは凍りついた。
クルーゼ夫妻恐るべし!
「ふっ。がそういうのなら、もう敵はいないだろう。容赦ないからな」
そう言って、ラウはをひょいっと抱きかかえると、
「アデス、後は頼んだぞ?犠牲者が出る前に、部屋へ行く」
と言い残し、と私室へ去っていった。
「・・・・・・・・・・」
数時間後
「すまなかったな」
心なしかスッキリした様子の隊長と、頬を赤らめ夫の腕に絡みついているがブリッジへ戻ってきた。
ビクっ!と震え上がるアデス。
「はっ、いえ・・・」
余計なことは口にしたくない。短い返事をし、黙り込む。
そんなアデスに気づいてはいるが、気づかぬフリでラウは命令を下す。
「アデス。はこれから帰る。明日の朝にはもう持ち場にいなければならないのだ。私は途中まで送ってくる。
その間、ヴェサリウスを頼んだぞ?」
と。
その隊長の言葉に、場の空気が軽くなる。
震え上がっていたアデスには、ラウの声が神の声に聞こえた。
「はっ!隊長も奥様も、お気をつけて!」
ビシィッ!と元気な敬礼。
も、
「ありがとvまた来るね」
ピッと可愛らしい敬礼をし、ラウとブリッジをあとにした。
満足いくまでラウと触れ合えたため、かなりご機嫌な様子。
クルーゼ夫妻が出て行った後のブリッジでは・・・
放心したアデスとビクビクしながら席に座っているしかなかった数人の兵達が、生きている喜びを噛み締めていた。
クルーゼ隊長夢でした。
隊長の奥さんであるヒロイン、甘えっ子の駄々っ子にしてみました。
隊長が大人なのでv(アニメで言っていることが子供の八つ当たりみたいでしたが)
それではっ、読んで下さってありがとうございました!
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