「アスラン!浮気よ!浮気!」





叫び言いながらズカズカと部屋に入り込んだ。


「!?ちょ、いったい何」


浮気。
これだけでは何も伝わらないのだが、
お構いなしなは動揺しているアスランをベッドに押し倒し、銃を突きつける。


「選んで!私を抱くか、死ぬか、どっち!?」

「ど、どっちって」


どちらを選んでも同じだ。
抱けばラウに殺される。拒めばに殺される。
後で殺されるか今殺されるか。
どちらを選んでもバッドエンド。
何とか話を逸らさなければ母親のもとへ行くことになる。


「と、とにかく落ち着いてください!何があったのか―」

「ラウが浮気したのよ!」

「隊長が!?」


衝撃の告白にアスランは目を剥いた。
妻一直線の隊長が浮気をしただなんて……。
あり得ない。きっと誤解だ。


「何かの間違」

「間違いじゃないわ!軍服に朱が付いていたのよ!私がつけている色じゃない!どういうことよ!?」

「そ、それは……」


言葉に詰まるアスラン。
どういうことだなんてそんなの俺に聞かれても。なんて言えない。
言ったら撃たれる。


「さあ、どうするの?」

「え、あ、いえ、やはりその、浮気をされたからといって浮気をし返すというのは倫理的に―」

「良いじゃない!私が許すわ!脱ぎなさい!私は絶対者よ!」


艦内ではだが、傲慢な発言に変わりはない。
聞いたアスランは軽く固まってしまった。
法など変わる。と言ったどっかの資産家も、
組織力で好き放題軍事関係を牛耳っているどこぞの理事も、ナチュラル憎し一直線の議長もビックリ。
言い放ったのがでなく他の誰かだったなら、間違いなく怒鳴り飛ばして部屋から摘み出すところなのだが―


「……」


アスランは何も言えない。動けない。
自分中心、他はおかまいなしな女性をどうしたら良いのか分からないのだ。
空を見つめて軽く現実逃避―
をしていたが、細く柔らかな手がズボンにかかったのを感じ慌てて我に返った。
このまま脱がされるわけにはいかない。


「や、止めて下さい!さん!」

「アスっ、きゃ!」


撃つなら撃てばいい。
半分自棄になったアスランは勢いよく起き上がるとを横に退け、素早くマウントポジョンをとった。
そして右手で銃を奪い左手での両手を拘束した。
上に圧し掛かられ、頭の上で両手を拘束されたのでは抵抗したくても出来ない。
完璧!
なのだが……


「嫌ぁ!アスラン怖いー!」

「あ……」


これではアスランがを手篭めにしようとしているようにしか見えない。
半裸の男が銃を片手に女性に圧し掛かっている姿、誤解をするなと言うには無理がありすぎる。


「す、すみません!」


アスランが謝罪と共にの拘束を解こうとしたその時―





ガー





「!!」

「……」

「あ……」


バッドタイミング。
何故に見られたらヤバいというところで来るのか?


思うことは山ほどあるのに言葉が出てこないアスラン。
は―――


「私は悪くないわよ!?」


真っ先に自分は悪くないと訴えた。
そして―


「全部ラウが悪いんだから!アスランも悪いけど、一番悪いのは貴方よラウ!」


全てを人のせいに変えた。
被害者まで加害者に変る
やりたい放題、言いたい放題である。


「隊長……」


アスランは半分覚悟を決めた。
きっと何を言っても駄目だ。
どんな処分が下されるのだろう?
やるならさっさとやってほしいものだ。
の拘束を解き、ベッドに項垂れて座っていると―


「迷惑をかけてすまなかったな」


ラウは一言謝罪した後、あっち行って!と暴れるをひょいと抱き上げ出て行った。
静まり返る部屋。
台風の後のよう。


「……何かあるのか?」


あの隊長が見逃してくれるなんて。
逆に怖い。
後が怖い。





―――変に不安になっているアスランを置いてクルーゼ夫妻の部屋―――





「……」


ベッドにポフンと下ろされたは無言でシーツに包まった。
話したくない。話すことなど何もない。と言うように頭までスッポリ。


、何を怒っている?」


ラウは困ったような声で訊くと、そっとシーツの上から愛妻を包み込んだ。
話して欲しい。話してくれなければ分からないこともある。と。
優しく撫で発言を促すと、はポソポソと小さな声で一言。


「浮気したこと」


怒りが引くと悲しみが押し寄せてくる。
今にも泣き出しそうな声だ。


「浮気?私が浮気をしたと?」


さらに優しく撫で、穏やかな声で聞き返すと……


「ええ。隠しても無駄よ?私、見たんだから。ラウの軍服に朱がついているの」



自分が使っている色ではない。
ということは、他の女のもの。
普通に接しているだけでは付着しない。
付着したということはイチャイチャくっついたに違いない。
言い逃れ出来ないでしょう。



シーツから顔を半分だけ出し、ジッとラウを睨む
ルビーのような紅い瞳は涙で揺れている。


……」


睨まれていたラウは妻の頬を撫で、軽く顔を綻ばせた。
やはり誤解をしていたのか。可愛いものだな。
と思ってのことなのだが―


「何よ、開き直るつもり!?」


開き直るつもりなのだと思ったは再びシーツを頭まで被り夫に背を向けた。
くやしい。
泣きたい気持ちを抑えていると―


、誤解だ。私は君以外の女性と触れ合ったりはしていない」


誤解だ。という言葉と共に抱きしめられた。
嘘や誤魔化しなど感じられない声。
はシーツに包まったままモゾモゾと器用に動き、ラウと向き合った。


「本当に?」


シーツから半身を出し、ジッと夫を見つめる。
仮面越しでは不安。目を見なければ不安。取って欲しい。
そう思っていると―


「私が嘘を付いているかどうか、確かめてみたらいい」


伝わったのか、ラウはの手をそっと仮面にかけさせた。
口元には笑みが浮かんでいる。


「……嘘付いてたら離婚だからね。慰謝料たっぷりとってやるんだから」



パチン プチン



はラウの仮面を丁寧に取り外す。
仮面を外し、髪をはらって見える素顔。


「嘘じゃないのね」


嘘を付いているような目ではない。
誤解というのは本当らしい。


「じゃ、あの朱は」
「ブリッジで通信兵とぶつかった時についたのだろう。まだ不安ならアデスにでも聞くといい」


ブリッジには女性兵がいる。
ふよふよと動き回る夫のこと、ぶつかって付着してもおかしくはない。



私ったら……
夫の浮遊癖を忘れていたなんて。



「ごめんなさい」



は素直に謝罪をした。
勝手に誤解をし、罵り、腹いせにアスランと浮気をしようとしたこと。


許してくれるだろうか?
嫌な女だと思われてしまったかもしれない。
もう一緒にはいられない。と言われるかもしれない。


不安な気持ちでラウの胸に顔を埋めていると―



「良く出来ました」



ポフッ
頭を軽く撫でられた。
顔を上げればいつもの優しい青い目が自分を見つめてくれている。



「ラ、ラウー!」



嬉しくなったは仔猫のように夫にじゃれついた。
ラウも愛しい妻を腕の中に抱えこんで微笑んでいる。
仲直り完了。




後日―

「う、うぅ……」
見逃してくれたのか、それとも何か企みがあるのか。
気になって気になって仕方がなかったアスラン。
ついにストレス性胃腸炎にかかり医務室へと運ばれた。
医務室―がいる。
悪化しそうな予感。





遅すぎで申し訳ありません><。やっと完成です。
こちらは少しだけギャグっぽく……なっていないかな--;
と、読んで下さりありがとうございました^^



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