一番風呂
「お掃除行き届いててよーし、湯加減よーし!」
夜、お風呂場でが元気良く確認している。
佐々木家ではお風呂掃除、湯沸かしは当番制なのだ。
今日のお風呂当番は。
「ふふー、ピッカピカ。今日はお父さん帰ってこないし、一番風呂は〜……」
「準備出来たようだな、ご苦労だった。退室して良いぞ」
母は控えめで、自分は後で良い。と言うから、一番風呂は自分だと思っていたの背後から彼の声。
ディラル。
小脇にミニタオル・バスタオル・着替えを抱えている姿からして、一番に入る気満々だ。
振り返りその姿を見たは当然怒りを露にする。
自分は召使ではない。
「ちょっと!何よその言い方!私は貴方の召使じゃないのよ!?それにっ、一番風呂は私なの!貴方は後!」
居候なのだから少しは遠慮しなさい。
そう言い放つにディラルはフルフルと首を振った。
「分かっていないな。この国では一番風呂は一家の長、大黒柱である父の特権だと聞いている。
その大黒柱である父、今夜は帰らないそうだな。ならば次に権利があるのはこの私だ」
「どーしてそうなるのよ」
「男だからだ」
「はあっ!?」
男尊女卑だ!
納得できない。
はディラルの袖を引っ張って居間へ。
母に訴える気はない。
どうせディラルの味方をするに決まっている。
お気に入りの様子だから。
絶対にクリア出来ない方法で一番風呂の権利を取り上げてやる。
自分の手で!
「ちょっと座って待ってて!」
ディラルを座らせ台所へ向かう。
持って来た物は―
「篭二つに小豆?」
流石のディラルも分からないという顔をしている。
そんなディラルには得意気に言った。
「いーい?今からこの篭に入った小豆をもう一つの篭に流し込むから、小豆が全部篭に入るまでに何粒あるか数えて。
チャンスは一回よ。正確に数えられなかったら一番風呂は私に譲ってもらうわ」
無理に決まっている。
この量を数秒で数えるなんて。
しかも流れている小豆なんて無理。
無理と分かっていてやる。
この男に居候であるという自覚を持たせる為!
否、自分が一番に入る為!
せこかろうが何だろうが好きにさせてなるものか!
がフフンと自信満々にディラルを見ると―――
「ふむ。いいだろう」
カチリとモノクルをかけ直し、始めろと合図してきた。
頭にきたは、物凄く早く流し込んでやると心に決めた。
「いい?じゃあいくわよ?はいっ!」
ザラザラザラ……
ザララ……
「さあ、何粒だった?」
「823粒だな」
篭から篭へ移し終わった小豆。
何粒あったかと聞いたら、あっさりと答えられてしまった。
「え、え?ちょっ、デタラっ」
「デタラメではない。確かに823粒だ。嘘だと思うのなら自分でも数えてみるといい。では風呂に入ってくる」
ディラルは意気揚々と居間を出て行った。
は信じられない!という思いを抱きながらせっせと小豆の数を数えだした。
長風呂から出たディラルが居間に入ると、篭の中の小豆を前にが固まっていた。
確かに823粒だったのだ。
「だから言っただろう。私は吸血鬼だ、そんなものを瞬時に数えるなど朝飯前のこんこんちきなのだ」
首からタオルをかけ、イチゴ牛乳をゴキュゴキュと飲むディラル。
片手は腰にあてられている。
何処で日本の事を学んだのか気になってしまう。
「ふーっ。では、そろそろ仕事に行く支度をするか」
夜警のバイトをしているというディラルは与えられた自室に引き上げていった。
「あら〜ちゃんディラルくんと遊んでたの?良いお兄ちゃんが出来たみたいでいいわね〜」
悔しいのと凄いという思いとで固まっているの背にのんきな母の声。
一番風呂は夢となってしまった。
ヒロインさんとディラルの一番風呂合戦でしたv
まだまだヒロインさんとの絡みは少ないですね(汗)もう少し絡むよう努めます。
それでは、読んで下さってありがとうございました。
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