接触2(B)
が烏道士に助けを求め家を飛び出した後・・・
「・・・未熟な娘だ。屍人形一体扱えないとはな。劉道士は何を教えてるんだか」
気配を消して窓の外からと聖の様子を窺っていた一人の男が、やれやれ。といった感じで呟いた。
「ずいぶん派手にやられたな?シェン。相変わらずの間抜けっぷりじゃないか。すぐに殺してしまえば良かったものを。
お前が殺れば俺が無駄な力を使う必要もなかったんだ。あんな雑魚二匹に・・・」
突然倒れた聖を襲った道士達。
彼等の命を奪ったのはこの男。他人の人形に勝手をするな、俺の邪魔をするな、と消した。
「まったく、世話の焼ける奴・・・」
男はぶつぶつと文句を言いながら部屋に入ると、聖を抱き上げ、ポイッと棺の中へ放り込んだ。
そして己の腕をビッと傷つけ、
「ほらっ血だ、くれてやる。化け物の血でもいいだろ?」
聖の唇に腕の傷口を当ててやった。血を飲め、と。
『んっ』
いい香り・・・血の匂い・・・。
聖は無意識に男の腕を取る。
そして、ちゅうっと傷に吸い付くと、傷口をぺろぺろ舐め始めた。
傷、体力を回復させてくれる甘美な液体・・・。
他のキョンシーのように人を襲ったりはしないが、聖も血は大好きだ。
『ふぅ、ぅ』
懐かしい匂いがする血。癒される。もっと、もっと欲しい。
傷口を舐め続ける。
が、そんなに深い傷ではないため、血はもう止まりそう。
足りないっ、まだ足りない!
聖は血を求め、抱えた腕に牙を立てようと、カァっと口を開いた。
鋭い犬歯が光って見える。
「っ!」
噛ませてやる気はない男は「調子に乗るな!」と、腕を振り聖を払った。
すると、払われた聖は苦しそうに眉根を寄せ、『ごめ、、、ん、、ひ、、じり』と、途切れ途切れに言葉を発した。
「っ!!!」
男・・・聖は驚愕し、目を見開く。
そんなっ、今こいつに意識はないはず。
いや、意識があったとしても、そんなっ、全て消し去ったはずだ。
俺の名を呼ぶなんて、そんな事っ、あるはずがない。
・・・何故?・・・
腹が立つよ、シェン。薄汚い、可愛い人形。どうしようもなく憎くて、愛しい人形。
男はしばらく生ゴミを見るような目で棺の中を見下ろし考えていたが、何を思ったか身を屈めると、そっと聖の頬に触れ、
「シェン、そろそろ娘が戻ってくる。後は娘が連れてくる道士に処置してもらうんだな。いいか?まだ壊れるんじゃないぞ?
・・・壊れそうになっても俺が治すがな。お前を壊していいのは、俺だけなんだ」
と囁き、聖の冷たい唇に己の唇を重ねた。
可愛い、俺の・・・。
今すぐにでも壊してしまいたい。
くっ、はは・・・あははははははははははっ。
男はゾクッとするような笑みを浮かべると、闇に溶け込むように去っていった。
男が去って数分後、
「道士様っ、こっち、こっち!」
が烏の腕をグイグイ引っ張りながら帰ってきた。
「烏道士様、早く、早く聖を助けて下さいっ!」
泣きそうな顔をして烏に聖を助けて下さいと縋る。
聖はもうただのキョンシーではないのだ。大切な家族。
「早くしないと・・・聖が死んじゃうっ・・・」
瞳に涙を一杯溜めて「聖が死んじゃう」と言い、地べたに座り込んでしまう。
そんなの頭を烏は優しく撫で、
「大丈夫だ、烏道士様に任せておけっ」
と笑った。
キョンシーは元から・・・という突っ込みなんてする気にはなれない。
後輩とその弟子が世話をしているキョンシー、助けてやるさ!
烏は「早速治療の術を!」と叫びながら部屋に踏み込む。
と・・・
「ややっ?!」
あれっ?という声を上げる烏。肝心の聖が見当たらない。
の話ではたしか・・・
「床に倒れていると聞いていたが・・・はて?っ」
いないじゃないか、どういうことだ?
を呼び、いないぞっ。と烏道士。棺の中にいるのかも。とは考えないのか。
「聖が、いない?そんなっ、棺の中にもいませんか?」
部屋に入ってきたは、涙をゴシゴシと袖で拭いながら烏に言う。
いないはずはない、と。
「棺?」
烏は、意識がなく床に倒れていると言っていたではないかっ、動けない者がどうやって中に入る?いるとは思えんっ。
などとぶつぶつ言いながら棺を覗き込んで・・・
「あ゛っ!・・・いた」
いたよ!いるとは思えない。とか言ったの聞こえなかったかな?聞こえてたらちょっと恥ずかしいぞっ。
ぶつぶつと放った独り言、聞かれていたら自分への尊敬の念は失われる。
烏はチラリとを見る。は早く助けてっ。という表情で見ている。大丈夫らしい。
「あー、んんっ。では治療を・・・っあれ?!」
無事みつけたし、早速治療。と思って聖の傷を見た烏は、「あれっ?」なんて少し間の抜けた声を上げた。
は不安そうに「どうしたんですか?!」と聞く。と、
「、しっかり治療できているではないか。後は線香を数本焚くだけ。私を呼ばずとも大丈夫だったはず。もっと自信を持ちなさいっ」
治療という治療はもう済んでいるじゃないか。
烏は、余程動転していたのだなっ。との頭をポムポム叩き笑う。
が、には身に覚えのないこと。治療なんてできなかった。
やったことは、線香を大量に・・・でもそれだけで回復するような傷ではなかった。
「烏道士様っ、私、何もできませんでした!治療らしい治療なんてなにも・・・ただお線香を焚いただけで・・・
あ、の、お線香を焚いただけで回復するような傷じゃありませんでした!だからっ、私っ」
混乱して上手く話せない。
烏は、では誰が?と思ったが、
「まぁ、いい。キョンシーはもう大丈夫なのだからな」と笑い、「今日はもう休めっ」とを部屋に戻した。
師匠の不在中に大変な事がおこり、混乱している。こんな状態では何も話せないだろう。
そう思って、休め。と戻した。
朝・・・
ゴソゴソっ。
「ん゛っ?!」
番つきのため、聖棺の隣にある棺(中は空っぽ)の上で寝ていた烏、物音で目が覚める。
何だ?
音のした方を見てみると、
ひょいっと、テーブルに置いてあるトマトを一つ掴み、口に運ぼうとしているキョンシーが一人。聖だ。
やや〜、本当に陽が出ていても動けるのだなぁ。お札もいらんとは・・・。
いやいや珍しい。と、烏は珍獣でも見るかのような目で聖の行動を見ていたが、ハッと我に返り、
「おいっ、いいのか?!」
聖の背に声をかけた。大声で。
『っ!』
急に声をかけられた聖はびっくり。いたずらを見つけられた子供のような顔で振り返ると、
『あっ、ごめんなさいっ。貴方のトマトだって知らなくて』
なんて、ちょっと間抜けな事を言った。
聖は、勝手にトマトを食うなっ。と怒られたと思っている。烏の言葉足らずのせい。
「いいのか?」これでは伝わらないのだが、烏道士様は自分の言葉が足りなかったとは思っていない。
鈍いキョンシーだっ。なんて思いながら、
「トマトなんぞどうでもいいっ。身体は大丈夫なのか?あっ?」
どうなんだ?と、聖に迫る。
なんでこの人はこんなに偉そうなんだろう?
聖は少し引きながら、
『あ、はい。おかげさまで・・・』
と返した。
で、返事をした後で疑問が浮かぶ。
あれ?なんでこの人、俺が怪我した事知ってるんだ?てか、誰?
『あのー・・・』
「道士様、朝ご飯・・・聖!!」
聖が目の前の人物、烏に「どちらさま?」と訊ねようとしたところに、登場。
朝食が出来ました。と烏を呼びに来たところ、聖が普通にいたものだからは嬉しくて・・・
「聖っ、聖ー!良かった、心配したんだからぁっ」
ガバァっと聖に飛びついた。
心配で心配でたまらなかった。ぎゅうっと抱きつき、聖の胸に顔を埋める。
『あっ、!あ、ううっ、あのっ、あのっ』
聖は真っ赤になって慌てる。から抱きついてくれるなんて初めて。慌てるなというのは無理。
しばらく「うー・・・」なんて困っていたが、落ち着け!と自分を正すと、
『ごめん、ね?心配かけて。・・・もう大丈夫だよ』
聖はそっとの背、腰に腕を回し、抱き返した。
が助けてくれたんだ。ずっと側にいてくれたに違いない。
闇に沈んでいる間、起きたとき、凄く暖かいものを感じた。
『ふふ、ありがとう、っ』
聖はぎゅむぅ〜っとを抱きしめ、嬉しそうにしている。
は・・・
「あっ、えと、うんっ。じゃあ、もう離して?」
じと〜。と、自分達を見ている烏に気づき、聖に離してほしいと言った。
申し訳ないが、忘れていた。道士の存在。
烏、はぁ〜っ、若いモンは朝からまぁ・・・。という顔をしている。
ちょっと羨ましいらしい。
は、かなり申し訳ない!という気持ちになり、聖の腕を解くと、
「烏道士様、春巻きお好きでしたよねっ?ささ、向こうに準備できていますので」
などと言って、その場から逃れようとした。食事でごまかそう。
春巻きは大好物だったはず。きっと喜んで下さるに違いないっ。
そう思ったのだが・・・
「あー、せっかくだがな、帰らせてもらう。キョンシーも良くなったことだし、かまわんだろっ。うちの馬鹿弟子の事が気になる」
烏は帰ると言い出した。
「えっ、あの、でも」
と、止めるに烏は「気にするなっ」と言い、「じゃあっ」なんて言いながら帰っていってしまった。
「いっちゃった・・・」
はポカーンとしている。自分のお師匠がしっかりしているせいか、烏のことは少し分からない。
聖は、『面白い、人だね。誰?』と不思議顔。
起きたら自室(コンシー(人工キョンシー)安置所)にいた謎の(聖にとっては)道士。正体が気になる。
は、「あの方は烏道士様。お師匠様の先輩よ」と言ってニッコリ笑うと、「食事にしましょ」
聖の腕を引っ張り、朝食が準備されている部屋へと歩き出した。
何だか幸せ。
7へ
すっ、すみません><。まだ劉道士帰って来ませんTT。
次、次こそは帰って来られますので><。
それでは、さっさと逃げてしまうようですが、ありがとうございました。
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