再会
夕暮れ―――
「聖ー、ちょっとお鍋見てて?私、お水汲んでくるから」
『いいけど、水なら俺が汲んでくるよ?重いし、雨降ってるしさ』
「ううん、いいの。実はね、ちょっと熱くて」
夕飯の仕度中の会話。
は鍋の火の熱さから少しだけ逃れるため、お茶用の水を汲みに外へ出た。
呼ばれた聖はフンフンと鼻歌交じりに鍋をかき混ぜている。
『卵雑炊にエビチリ、八宝菜に豆……うん、今日もイイ献立だ』
聖は栄養バランスを考えながら独り言を発した。
バランスが良いか悪いかはあまり分からないが、良い感じがするらしい。
エプロンをして料理をするキョンシー、ちょっと微笑ましい。
「んっしょ」
カラカラと音を立てる滑車。
は井戸で水汲み。
パシャッと音を立てる水。
必要な分だけを持ち、歩き出そうとしたその時―――
「すみません」
「へっ?」
突然背後から声をかけられた。
若い男の声だ。
絡みつくような美声。
が振り返ると、そこには長身の男が立っていた。
紺色の道士服を身に纏った男。
漆黒の艶やかな長髪、黒曜石のような美しい黒い目が印象的。
「あ……えと、道士、様?」
「はい、一応」
旅途中の道士にしか見えないのに間抜けな事を言ってしまう。
ボーッとしてしまうくらい美しい男だったからつい。
聖も美男子だけど、この方はもっと綺麗。
人間離れした美しさって、こういうのかな。
「あの、宜しいですか?」
「へ、あ、ああ、はいっ!失礼しました!何でしょうか!」
綺麗な男性だなー。なんて思ってボケっとしていたに、道士は苦笑しながら話しかけてきた。
用があるのだ、用が。
「突然で申し訳ないのですが、一晩泊めていただきたいのです。
村や街まで辿り着くにはまだまだ道のりがありそうですし、この雨ですし。
軒下でもかまいません。置いていただけるととても助かるのですが……」
申し訳なさそうに言う道士。
よく見ればずぶ濡れだ。
「あ、すみませんっ、私ったら気づかないで……どうぞ中へ!お師匠様もきっと歓迎してくださいます」
「お師匠様?」
「はいっ!道士で、私のお師匠様ですっ」
「ああ、それは早くご挨拶しなければ」
「さあ、どうぞ、直ぐにタオルなどをお持ちしますので」
は道士を家の中に招き入れ、師を呼びに奥へ行く。
呼ばれた師、劉は直ぐに出て来た。
「おおっ、これは道士殿。私は劉と申します。
この雨でさぞお困りでしたでしょう。狭い家ですがどうぞくつろいで。もう直ぐ夕食も出来ますから」
「ありがとうございます。道士、私は羅那と申します。
本当に突然で申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます」
二人は印を組んで挨拶した後、しばしの雑談をしだした。
「先ほどの女性、お弟子さんは良く指導が行き届いていますね。流石だ」
「ですか。まだまだ未熟者ですし、ポケッとしていたりしますが気は利くほうですよ」
「ああ、それは良く分かる気がします。貸して頂いたタオルが温められていましたので」
何でもない会話。
そこへ―――
『道士、お客さんにお茶を持ってきました』
聖がひょっこりお茶を持ってやってきた。
キョンシー!
羅那はバッと懐から銭剣を取り出す。
『え゛っ、ちょっ!待った待った!』
そんな物騒な物出さないで欲しい。
聖はお茶を素早く置くと、タタッと間をとった。
「羅那殿っ、彼は聖という名の無害なキョンシーです。大丈夫ですから」
「無害なキョンシー?」
「自我があるのですよ」
「なんとっ……不思議なキョンシーですね。いや、失礼しました」
『あ゛ー、びっくりした』
慌てて劉が止めに入り、大事にはならなかった。
今や聖は大事な家族。
傷つけられては困る。
当の聖は警戒しながらまた奥へと行ってしまった。
苦手だと思ったようだ。
羅那は分かっていた。
聖が普通のキョンシーと違うこと。
水鏡で見ていたのだから。
分かっていたが、一応は反応して見せた。
でないと不自然だから。
演技をするのも楽ではないな。
羅那は内心そう思っていた。
9へ
やっと羅那が登場出来ました。長かったのかそうでもなかったのか。
徐々に登場キャラを増やしていければ、と。
それでは、読んでくださってありがとうございました^^
TOP
戻る