むかーしむかしあるところに、劉という名の道士と、という名の弟子(女)が、それはそれは平和に暮らしていました。









道士と弟子とキョンシーと






日も昇りそろそろ朝食の時間という頃、弟子のは道士宅から少し離れた所でひたすら桃剣を振るっていた。
師匠である劉からに課せられた修行メニューなのだ。

「やあーーーーーーーっ」
「おりゃあーーーーーーっ」
「お師匠ラーーーーーーーブっ」

たまに告白を交えながら懸命に剣を振るう。
そして数十分後・・・


「お師匠様〜〜〜素振り五百回終わりました〜」
は頬をピンク色に染め、桃剣片手に元気よく愛する師匠劉の元へと駆け出した。
家に着いたらお師匠様と朝ごはん〜〜v
の心は弾む。
家まであと直線230mほどというところまで来たとき・・・


ズデッ


転んだ。
「いっ・・・たたたたた・・・」
木が転がってたのかな?ついてない。あれっ?でも来るとき木なんて転がってたかな?
考えながらはふと足元を見た。
そして・・・


「あわわわわわわわわわっ!!」


叫んだ。
無理もない。行き倒れの野良キョンシーが足にしがみ付いていたのだから。
「ななっ、何っ!?このキョンシーは!?えい、えい、放せ、放してっ、取れないーーーっ」
必死に引き剥がそうともがくものの、ガッチリ掴まれていて剥がせない。
もがけばもがくほど強くしがみ付いてくる。
「何なの〜?」
困り果てる
攻撃してくるのなら桃剣を突き立てることもできるのだが、キョンシーはしがみ付いているだけ。
これでサックリ突き立てたら後味が悪そうだ。
どうしたものか。
半分脱力気分になったは、キョンシーに話し掛けてみた。
「はぁ。私、帰りたいの。放してくれないかな?」
と。
すると、キョンシーは顔を上げての顔をじっと見つめてきた。
何を言いたいのか普通の人間には分からないだろうが、には分かった。
「・・・一緒に来る?」
と聞くと、キョンシーは首を激しく上下に振った。
世にも珍しい自我を持つキョンシー。
お腹をすかせたキョンシーってホントにいるんだな・・・なんて考えながら、
「じゃあ、放してね」
と言うと、キョンシーは素直に放れた。
立ち上がったキョンシーは中々の長身美男子。

年若くカッコイイ劉お師匠様と、美形の若いキョンシー・・・両手に花と団子っ!

は少しニンマリし、じゃあ〜行くよ!と歩き出した。
本当は走りたいのだが、キョンシーに気を使って歩いた。
ちゃんとついてきてるかな?
少し心配になって振り向くと、キョンシーはスタスタと歩いてついてきていた。


「!?」


ちょちょ、ちょっと待って?キョンシーって、ジャンプして移動するんじゃないの?
何?何で彼ってば普通に歩いてんの?
半分混乱する。必死に考えた。そして思い出した。前に師匠に教わった事を。
そういえば・・・時間がたつとキョンシーは普通に歩いたり目が見えるようになるんだっけ・・・
なんだ、不思議じゃないじゃない。
スピード解決。
して、謎が解けて次に湧いてきたのは、走ったらどうなるの?という少しくだらない考え。
はチラっとキョンシーを振り返り見ると・・・


ズタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタっ


突然猛スピードで走り出した。
キョンシージャンプでついて来るのかなっ、それともっ、空飛んでくるのかなっ
それともっ、地面すれすれを飛んでくるのかなっ
半分ワクワクしながら後ろを振り返ると・・・


ズタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタっ


キョンシーはの期待を裏切り、普通に猛スピードで走っていた。
陸上選手のように走っていた。
期待通りではなくつまらない。
が、別の意味では面白い。
もうすぐ家、このまま走ろう。というわけで、ダッシュダッシュダッシュ。


走ること数十秒、家の前でマキ割りをしている劉道士の姿が見えた。
お師匠様っvv
尊敬と愛情を寄せている劉。自然と笑顔になる。
「おーーーししょーーーーーうさーーまーーーv」
叫ぶ。そして手をブンブン振り帰って来たことを知らせる。
元気一杯。
して、の声に気づいた劉。
ああ、帰ってきたか。最近は素振りを終えるのも早くなったものだ、褒めてやらないと。
と、笑顔で迫ってくるの方へ向いた。
そして・・・
満面の笑みで駆けてくる愛弟子と、その後ろを無表情で駆けてくるキョンシーの姿を見て固まった。

白やピンクの小さな花が咲き乱れる道で、美女とキョンシーが追いかけっこでワンダーランド。

は男に興味がないと思っていた。
以前先輩の所に遊びに連れて行ったときも、そこにいた男弟子に興味を示さなかった。
立派な道士になれる。そう思っていた。
が、まさか、まさか、


キョンシーの男が好きだったとは――――――



ショック! ショック!! ショック!!!



して、。激しく誤解勘違いをしている劉の元へやっと辿り着いた。
もちろんキョンシーも一緒。
「お師匠様、ただいまv・・・?お師匠様?」
「・・・・・」
「お師匠様!・・・返事、しないね」
「・・・・・」
とキョンシーは不思議そうに顔を見合わせた。
袖を引っ張ろうがわき腹をくすぐろうが、噛み付く素振りを見せようが反応がない。
お師匠様らしくない。一体どうしたのか・・・
は心配になり、劉の耳元に口を近づけると、


「おー師匠様ーーーーーーーーーーーっ!!!」


大声で叫んだ。
「っ!!!!!」
これは効いた。劉は耳を塞いで少しから離れると、
「そんなに大きな声を出すんじゃない」
とやんわり叱った。
叱られたは、
「だって、お師匠様が返事しないから」
とサラリと言った。
キョンシーは無言で頷いた。
劉が固まる原因を作ったのが自分達だとは思っていないらしい。
まだ修行が足りない。そう思いながら、劉はキョンシーのことを尋ねることにした。
師匠である自分には弟子であるに対して責任がある。
可哀想だがキョンシーとの恋愛は無理だと教えてやらねば。
勘違い大爆発だとは思っていない。

この後、事情を知った劉は、ホッとしたのと底なしに恥ずかしいのとで心がいっぱいになった。





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