オペレーション・スピットブレイク後……
クルーゼ夫妻、帰国―――
STORM (前編)
「……で、貴様は何と返したのだ?」
「何も……返せませんでした」
「何だと!?何一つ言い返せずに黙って従ったと言うのか貴様はぁっ!」
ダンッ……
激しくデスクを叩く音。ここは最高評議会議長の執務室。
パトリック・ザラが息子、アスラン・ザラを叱りつけている。
どうしたのかというと……
ストライクを討った事の他に何でもいいから何か報告しろ!
と言われたアスランが、ヴェサリウスでのある出来事(かまって下さい)を報告。
したら……
パトリックが激しく怒りだした。
それだけ。
多分、作戦失敗の八つ当たり。
「従うしかなかったんです!逆らったりしたら……」
「馬鹿者!あんな小娘の言いなりになるとは情けないぞアスラン!クルーゼの嫁ごとき、押さえ込めんでどうする!?」
「ぃえ、その……とても美しくて素敵な女性なのでつい……」
「何を言っているんだっ、貴様は!」
「…………」
突然態度を変えて黙ったアスラン。
そのワケは……
クルーゼ夫妻が執務室へ入ってきたのを感じたから。
「何を黙っている?!何とか言ったらどうだ!」
アスランの目を真っ直ぐ見ながら興奮ぎみに話しているため、パトリックは入ってきた夫妻に気づかない。
「……」
「……」
「……」
「アスラン!!」
足音なども聞こえていないようだ。
父上ー、私の後ろ、後ろー!
アスランは必死に目配せをするが、気づいてもらえない。
父はブツブツと文句を言いながらクルリと椅子を回転させ、背を向けてしまった。
どうすればいいのか?
困ったアスランは、カツン。と横に並んだクルーゼ妻、の顔色をチラリと窺った。
「…………」
怒っている。
ルビー色の瞳は怒りで……怒りで……?
「…………」
な、泣きそう?!
赤い瞳をウルウルと潤ませている。
今にも大粒の涙を零しそう。
"あんな小娘" "クルーゼの嫁ごとき"で傷ついたのか。
可愛いところもあるんだな。なんて思いながらふと、の夫、ラウ・ル・クルーゼを見たアスラン……
「ぎ、議長……」
父を呼んだ。
気づいて欲しい。気づいて、何とか言って欲しい。
応対してくれないと……危険。
ラウの表情、最近は口元だけで分かる。
夫婦で怒っていますよ、父上。
何とか父に教えようと、呼びかけたり咳払いをしてみたりするのだが、父は「何だ煩い!」と怒るだけ。
ああっ、もう。
アスランが目を伏せた瞬間……
「ザラ議長」
ラウの声。
怒りを感じさせない声、流石。
突然の声にパトリックは……
「な゛っ、クルーゼ?!いつの間にっ」
ビクっと身を震わせ、バッと振り返った。
き、聞かれた?
息子には「もっと強気に!」というような事を言っているが……自分もクルーゼ夫妻は怖い。
いや、夫人が怖い。
そう、夫人……が怖い。
「ぁ……ゴホンっ。聞いていたのかっ?」
「はい。あんな小娘、あたりからずっと」
口元に笑みを浮かべ答えるラウ。
怒っている。
パトリックにも分かる。
間違いなく怒っている。
どうする?
視線をに移すと……
「……ラウっ、ラウーーーっ」
はキッとパトリックを睨んだ後、夫に抱きつき泣き出した。
議長が自分の事を"あんな小娘""クルーゼの嫁ごとき"なんて言って罵ったー、と。
さあ大変!
「ザラ議長がっ、ザラ議長があぁっ」
本当に泣いているのか、嘘泣きなのか……
どちらにしてもヤバイ。
夫ラウは、よしよし泣くな。などと言って愛しい妻の背を撫でている。
仮面を怪しく光らせながら。
……非常にヤバイ感じ。
「ぎ、ぎ、議長、謝罪をっ」
固まっていたアスラン、このままでは危険。と判断し、謝罪をと進言する。
が、パトリックはグゥと押し黙っている。
数分後
「……ラウ、私……私……」
何時までたっても謝罪がない事にしびれを切らしたのか、が動き出した。
スッとラウの懐に手を差し入れ……
「私……
後編へ続く
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