「?……悪いが、私は薬など所持してはいない」





返ってきた答えは「持っていない」という冷たいものだった。



意地悪をしているわけではない。



本当に持っていないのだ。



「そんなっ……」



はヘタヘタと床に座り込んでしまう。



「お城の主はお医者様で……どんな病気も治すお薬を持っているって……わけて貰えたら……町にいて良いって……」



大きな瞳が涙で潤んでいる。



アウインが髪を撫でながら慰めるが、お医者様だって、持っているって。と繰り返すばかり。



そんなにうんざりしたのか、ユークレースが口を開いた。



「ロブは医者じゃないし、この城に医者なんかいないし、薬なんてない。騙されたんだよ。
どういう理由でかは知らないけど、町の人間達は余所者のあんたが邪魔だったんだ。
だからこの吹雪の中、嘘をついてほうり出したんだろうさ。雪に埋もれて死んでくれる事を願って。
万が一城に辿りつけたとしても、吸血鬼達の餌になって消え」

「吸血鬼っ?!吸血鬼って……貴方達?」





黙って話を聞いていたは驚いて聞き返した。



気づいていなかったのか……



ユークレースは溜息をつく。



「そうだよ。まったく、僕やアウで気づかないのは仕方がないとしても、ロブの目を見たら分かりそうなものだと思うけど?
まぁ、仕方ないか。吹雪の中を軽装で登山する女だし……気づかなくても不思議じゃないね」







ロブノールの目?



彼の目は……



金色。



ここまで金色の目をした人間はいない。







吸血鬼……そんな事……







「吸血鬼って……そんな話……聞いてないわ!」







そう、聞いていなかった。



吸血鬼がいるだなんて。







「……馬鹿?城へ向かわせたいのに話す?吸血鬼が住んでいます。なんて。
化け物が出るなんて知ったら、魔物ハンター以外は城へ行こうなんて思わないよ。
だいたい、普通の医者が行きも帰りも命がけな場所に居を構える?可笑しいよ。どう考えても」



ユークレースはあきれてまた溜息をついた。





よくこの調子でこれまで無事にやってこれたな。





「……僕は部屋に戻るよ。付き合っていられないから」



話していると疲れる。



「あっ、こらっ!」



アウインも、言うだけ言ってさっさと退室していった仲間を追いかけ出て行った。



傷ついている女の子に対して酷すぎる!とお説教をするためだ。



ユークレースとアウインが出て行き、部屋は沈黙に包まれる。










どれくらいの時間がたったのだろうか?



座り込んで動かなかったが口を開いた。



「……私……貴方達に血を吸われるの?」



顔を上げ、縋るような瞳でロブノールを見上げる。







嫌……



でも……



もう行く場所なんて何処にもないし……







「……血を奪うつもりはない」



そう言うと、ロブノールは静かに膝を付き、親指での涙をそっと拭った。



何か思うことがあっての行動ではなくて、ただ何となく。



涙を拭われたは―――







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ウェルカム四話目ーっ!
ユークレースがちょっと嫌な子をしていますが、こう、じょじょに仲良く……と。
それでは、ありがとうございましたっ。



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